11月25日の世界の昔話
ほら吹き男爵 凍り付いたラッパの音
ビュルガーの童話 → ビュルガーの童話について
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
これは、ロシアへ旅に行った時の事だ。
寒さの厳しい日が続いたので、わがはいは愛馬のリトアニア馬を宿屋に預けると、郵便馬車に乗り込んで旅を続ける事にした。
道幅がどんどんせまくなり、馬車は両側にイバラのしげった、せまいでこぼこ道にさしかかった。
こんなせまい道で反対側から馬車がやって来てはさける事が出来ないので、わがはいは御者に注意をしてやった。
「もし反対側から別の馬車がやって来たら、大変な事になる。注意をうながすためにも、ラッパで合い図をしたほうがいいぞ」
「はい、わかりました」
御者は、さっそく、わがはいに言われた通りにラッパを吹いたのだが、
「・・・・・・」
どうした事か、ラッパがさっぱり鳴らないのである。
御者は顔をまっ赤にして頑張るが、ピィーともスゥーとも鳴らないのだ。
「どうした? 早く鳴らさないと、危ないぞ」
と、その時、間の悪い事に反対側から別の馬車がやって来た。
「危ない! 早く馬車を止めろ!」
わがはいの指示で御者は何とか馬車を止めたが、二台の馬車はせまい道で向かい合ってしまい、立ち往生してしまったのだ。
まったく、さっさとラッパで合い図を出していれば、相手の馬車を広い道で待たせて楽々とすれ違う事が出来たのに。
まあ、今となってはもう遅いが。
「どうしましょう・・・」
御者はなさけない声で、わがはいに助けを求めた。
「しょうがないなあ」
そこでわがはいは自慢の怪力をふるうのはこの時と、馬車から飛びおりて馬をはずすと、四輪馬車を肩にかつぎあげて、
「やーっ!」
と、鋭い気合いもろとも相手の馬車の上を飛びこえて、向こう側の地面にぴょんと降り立った。
そしてまた元の場所に戻ると、今度は二頭の馬を左右にかかえて、再び馬車の屋根を飛びこえた。
こうして二台の馬車は、無事に走り去る事が出来たのである。
「えらい力ですなあ」
御者は驚きの声をあげたが、
「きみのラッパの鳴らし方が悪いから、こんな力仕事をしたのだ。一体、何のためのラッパだ?」
と、わがはいは、プンプンと注意をした。
さて、その夜は宿屋に泊まって昼間の力仕事の疲れを休めたわけだが、わがはいと御者が暖炉の前で世間話をしていると、実に不思議な事が起こった。
何と、暖炉の横にかけてあった御者のラッパが、
♪ブーーーッ!
と、突然、鳴り出すではないか。
「こっ、これは・・・。そうか!」
わがはいはしばらく考えて、昼間、ラッパが鳴らなかったわけがやっとわかった。
昼間に鳴らしたラッパの音はラッパの中で凍り付いてしまい、それが暖炉の暖かさにとけて、たった今、鳴り出したのである。
「いやー、なるほど、なるほど。きみのラッパの鳴らし方が、悪かったのではなかったのだな」
わがはいは御者に昼間怒った事をあやまると、おわびにホットワインをごちそうした。
『冬にラッパを吹く時は、良く温めてから吹こう』
これが、今日の教訓だ。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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