福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうのイソップ童話
ライオンとキツネとシカ
ライオンが病気になって、洞穴の中で寝ていました。
このライオンは、一匹のキツネと仲良しでした。
お見舞いに来てくれたキツネに、ライオンは頼みました。
「ぼくの病気を治したいと思うのなら、森にいるシカをだましてここに連れてきてくれないか。ぼくはシカの腹わたと心臓が食べたくてたまらないんだ」
キツネは、シカを探しに行きました。
間もなく、森の中ではね回っているシカが見つかりました。
キツネは、シカに近づくと、
「あなたにいい話があります。
われわれの王さまであるライオンくんが、いま病気で死にそうなんです。
それでライオンくんは、自分が死んだ後の王さまを誰にするか考えました。
イノシシは頭が悪いし、クマはのろまだ。
ヒョウは怒りっぽいし、トラはすぐにいばる。
そこで、シカくんなら背が高くて立派だし、長生きするし、堂々とした角はあるしで。
と、ここまで言えばわかるでしょう。
ライオンくんは次の王さまに、あなたを選びました。
シカくん、王さまになりたいのなら、早くライオンくんのところへ行って下さい」
キツネの話を聞いて、シカはすっかり得意になりました。
そして、キツネについて行って、ライオンの洞穴に入りました。
たちまち、待ち構えていたライオンがシカに飛びかかりましたが、
しくじって、シカの耳を引き裂いただけでした。
シカはいちもくさんに、森に逃げ帰りました。
「お願いだ。もう一度、何とかして、あのシカを連れて来てくれよ」
「うーん、やっかいで、難しい事を頼むなあ。まあいい。何とかやってあげるよ」
そしてキツネは、まるで猟犬の様にシカの足跡をつけていきながら、どうやってだまそうかと頭をひねりました。
途中、ヒツジ飼いたちに会ったので、キツネは、
「血まみれになったシカを、見かけませんでしたか?」
と、尋ねました。
「ああ、あそこの林の中のねぐらにいるよ」
教えられたキツネは、休んでいるシカのところへ行って、すました顔であいさつをしました。
シカはカンカンに怒って、毛を逆立てて言いました。
「けがわらしいキツネめ!
もう、だまされないぞ!
そばに来たら命はないと思え!
お前がどんな悪者か、知らない奴をだましに行くがいい。
王さまにしてやると言って、おだててやれ」
すると、キツネは、
「あんたは、それほど腰抜けの卑怯者なのかい?
そんな風に、わたしたちをうたぐるなんて。
ライオンくんがあんたの耳を捕まえたのは、王さまになった時の心構えを教えようとしたんだよ。
それなのにあんたは、病気のライオンくんがちょっと引っ掻いたのも我慢出来ないなんて。
あんたのふがいなさに怒ったライオンくんは、今度はオオカミを王さまにすると言っているよ。
困るなあ。
乱暴者のオオカミが王さまになっては。
だからさ、わたしと一緒に来てくれよ。
ライオンくんが、あんたに害を加えるはずがない。わたしが保証するから」
こんな風に、キツネはシカを言いくるめて、もう一度ライオンのところへ連れて行きました。
シカが洞穴に入るとライオンは、
「今度はごちそうを逃さないぞ!」
と、ばかり、骨からはらわたまで、ガツガツと食べてしまいました。
キツネは、そばでながめていました。
その足元に、シカの心臓がこぼれ落ちました。
キツネはそれをさっと拾って、さんざん働かされた埋め合わせにと、ぺろりと食べてしまいました。
ライオンは、はらわたを端から食べましたが、心臓だけが見つかりません。
「心臓は、どうしたのだろう?」
と、しきりに探しています。
それを見てキツネは、ライオンの手の届かないところまで逃げてから言いました。
「このシカには、元々心臓がなかったから、探しても無駄だよ。
だって、普通の心臓を持っている動物なら、ライオンの住みかへ2度も、のこのこやって来るはずがないだろう」
このお話しは、偉くなっていばりたいという気持ちがあんまり強いと、物事を見極める事が出来なくなり、危険がさしせまっているのにも気がつかないと言う事を教えています。
おしまい
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