|
|
福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話
王子さまの耳はロバの耳
ポルトガルの昔話 → ポルトガルの国情報
むかしむかし、子どものいない王さまとお后さまがいました。
二人は、子どもが欲しくてなりません。
そこで王さまは三人の妖精(ようせい)を呼んで、子どもを授けて欲しいと頼みました。
すると三人の妖精は、
「その願いを、かなえてあげましょう」
と、約束してくれたのです。
そしてひと月が過ぎると、お后さまに王子が産まれたのです。
再び現れた三人の妖精は、魔法の力で王子に贈り物をすることにしました。
まず、一人目の妖精が言いました。
「世界一美しい王子に、なりますように」
次に、二番目の妖精が言いました。
「思いやりのある、賢い王子になりますように」
次は三番目の妖精の番ですが、三番目の妖精は困ってしまいました。
三番目の妖精が言おうと思っていた事を、前の二人が言ってしまったからです。
(どうしましょう。何かうまい言葉はないかしら?)
しばらく考えた三番目の妖精は、こう言いました。
「それでは王子に、ロバの耳が生えますように。そうすれば決していばる事のない王子になるでしょう」
それを聞いた王さまとお后さまはびっくりして、最後の願いを取り消してほしいと妖精たちに頼みました。
けれども妖精の言葉は、一度言ったら取り消す事が出来ないのです。
三人の妖精は、さっさと帰ってしまいました。
それから間もなく王子の頭から、ロバの耳がニョッキリと生えてきました。
それを見た王さまは、
(これは困った。やがてこの国の王にな者がロバの耳を持っているとわかったら、国民の笑い者になるぞ)
と、考えて、ロバの耳をすっぽりと隠してくれるボウシを作らせました。
そして朝から晩まで、王さまはそのボウシを王子にかぶらせたのです。
やがて王子は妖精の願い通り、美しく賢い王子になりました。
もちろん、ロバの耳も大きく立派になりました。
王子は生まれてから一度も髪の毛を切った事がないので、ボウシの中は長い髪の毛と立派なロバの耳でパンパンです。
このままでは、ボウシがいつ破裂するか分かりません。
(これは困った。せめて王子の髪の毛を切らなくては)
そこで王さまは床屋(とこや→髪の毛を切る人)を呼んで、こう言いました。
「王子の髪を切ってくれ。しかし、ボウシの下に見た物を人に話してはならないぞ。もし話したら、命はないものと思え」
「はい。わたくしは口が固いのが自慢です。ボウシの下に見た物は、誰にも話しません」
床屋はそう約束したのですが、王子の耳がロバの耳である事を知ると、人に話したくて話したくてたまりません。
でも、王さまとの約束を思い出して、ジッとだまっていました。
そんなある日、床屋は教会へ行くと神父さんに相談しました。
「神父さま。わたしは、誰にも言ってはならない秘密を持っています。
もし言えば、わたしは殺されてしまうのです。
けれどもわたしは、このまま黙っているのが辛くてなりません。
一体、どうしたら良いのでしょうか?」
すると神父さんは、こう言いました。
「それなら谷間へ行って、穴を掘りなさい。
そして穴の中へ、その持っている秘密を何度も叫ぶのです。
そうすれば、きっと胸が軽くなるでしょう。
その後で穴に土をかぶせておけば、その秘密はもれないでしょう」
そこで床屋は谷へ行って穴を掘ると、
「王子さまの耳は、ロバの耳! 王子さまの耳は、ロバの耳!」
と、何度も何度も叫びました。
すると神父さんの言った通り、床屋の胸の苦しさがすーっと消えたのです。
喜んだ床屋は掘った穴に土をかぶせると、家に帰りました。
それからしばらくすると、床屋が秘密を埋めたところからアシが生えてきました。
そこへヒツジ飼いがやって来て、そのアシで笛(ふえ)を作りました。
そしてヒツジ飼いがアシの笛を吹くと、笛は一人でに、
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
と、歌ったのです。
この話は、すぐに国中に広まりました。
そしてとうとう、王さまの耳にも届いたのです。
王さまはヒツジ飼いにアシの笛を持って来させると、吹いてみるように命令しました。
すると笛は、
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
と、歌ったのです。
今度は王さまが、アシの笛を吹いてみました。
するとやっぱり、笛は、
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
と、歌ったのです。
「この事を知っているのは、床屋しかいないはずだ」
王さまは床屋を呼び寄せると、秘密をしゃべったかどうか聞きました。
すると床屋は正直に、穴を掘ってその中に秘密を大声で叫んだ事を話したのです。
「けしからん! 約束通り、首をはねてやるぞ!」
王さまはカンカンに怒って、家来に床屋の首をはるね様に命令しました。
その時です。
若い王子が出て来て言いました。
「床屋には罪はありません。どうか、床屋の命を助けてやってください」
そして、
「わたしの耳の事は、もうみんなが知っています。
今さら、隠している必要はありません。
わたしはロバの耳を持っていても、きっと立派な王になってみせます。
さあ、皆さん、よくご覧なさい」
と、言って、かぶっていたボウシを取りました。
ところが不思議な事に、王子の頭には、もうロバの耳はありませんでした。
自分の秘密をしゃべった床屋の命を救った、この立派な王子には、いばらない様にする為のロバの耳は必要なかったからです。
そしてその時から、あの笛も、
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
♪王子さまの耳は、ロバの耳。
と、歌う事はなくなったそうです。
おしまい
|
|
|