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月の見ていた話十四夜
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こんばんわ。
わたしは、高い空の上にいる月です。
タ方から朝になるまで、いろんな国のいろんなところをながめます。
では、ゆうべ見たことを話してあげましょう。
森の道を歩いていくと、屋根にこけがはえたお百姓(ひゃくしょう)さんの家があります。
まどの下にはモモ色や黄色の花がさいていて、小さな庭の畑にはキャベツがうえてありました。
そして門のところには、にわとこ(→スイカズラ科の落葉大低木)の木が一本立っています。
枝にはコウノトリが巣(す)を作っていて、きのうの夜も、カチカチとくちばしをならしていました。
そのコウノトリを、女の子はジッと見ていました。
ドアの下の石段にすわって、ほおづえをついて、ときどきため息をもらしていました。
そのときドアが開いて、おにいちゃんが出て来ました。
「なにをしているんだい?」
「おにいちゃん、おとなりのおばさんが言ってたの。赤ちゃんは、今夜コウノトリがつれて来るよって。なのに、うちのコウノトリ、ちっとも出かけないの」
「アハハ。コウノトリはね、赤ちゃんをつれて来ないよ」
おにいちゃんは、女の子の横にこしを下ろしました。
「じゃあ、誰が赤ちゃんをつれて来るの?」
「それはね、神さまだよ。神さまは大きなマントに赤ちゃんをつつんできてくださるのさ。でも残念なことに、その姿は人間には見えないんだって」
おにいちゃんがそう言ったとき、いきなり強い風がふいて、にわとこの木がガサガサと音をたててゆれました。
おにいちゃんと女の子は顔を見合わせて、急いで手を合わせました。
神さまが、いらしたにちがいありません。
そして風がやむと、二人は手をとりあって、ホッとうなずきました。
するとドアが開いて、手伝いに来ていたおとなりのおばさんが言いました。
「ねえ、コウノトリが何をつれて来たか見てごらん。かわいい男の赤ちゃんだよ」
おにいちゃんと女の子は、
「そんなこと、とっくに知ってるよね」
と、クスッと笑いあいましたよ。
おしまい
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