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悪魔の目薬
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むかしむかし、赤ちゃんが生まれるのを手伝う、お産婆さん(おさんばさん)として有名なグーディさんの家に、黒マントで体をすっぽりと隠した鋭い目つきの男が、真夜中にたずねて来たのです。
「グーディばあさんは、いるかね?」
親切なグーディさんは、すぐに起きて来ました。
「はい、はい。わたしがグーディですが、何かご用ですか?」
「子どもが産まれそうなんだ。さっそく、来てもらおう」
グーディさんが表に出ると、まっ赤な目をしたまっ黒い馬が二人を待っていました。
「さあ、乗ってくれ」
グーディさんが男の後ろに乗ると、馬は飛ぶような勢いで走り出しました。
あまりにも馬が速いので、グーディさんは自分がどこを走っているのかわかりません。
走って、走って、走ったあげく、馬は大きいけれどみすぼらしい、一軒の家の前に止まりました。
男と一緒に家の中へ入ると、子どもたちが遊んでいました。
そしてベッドには、奥さんが生まれたばかりの赤ちゃんと一緒に寝ていました。
まるまると太った、立派な赤ちゃんです。
「よく来てくれましたね」
奥さんはまくら元の小箱から、小さなビンを取り出して言いました。
「これは、我が家に伝わる大切な塗り薬です。赤ちゃんの目が開いたら、すぐに両方のまぶたにつけてほしいのです」
グーディさんは長い事、産婆さんをやっていますが、こんな薬は知りません。
(いったい、何に効くのかしら?)
そう考えていると、さっそく赤ちゃんの目が開いたので、グーディさんは急いで薬をつけてやりました。
そして奥さんの目をぬすんで、こっそり自分の右のまぶたに塗ってみました。
すると不思議な事に、みすぼらしかった家が、輝く様に美しくかわったのです。
まるで、宮殿の様です。
奥さんが寝ていたボロボロのベットは、女王さまが寝るような素敵なベッドに。
安物のロウソクがたてられた明かりは、光輝くシャンデリアに。
奥さんも赤ちゃんの着ている服も、それは立派な衣装に変わりました。
ところが遊んでいる子どもたちを見てみると、お尻からとがった尻尾の生えた悪魔だったのです。
(まあ、ここは悪魔の住み家なんだわ!)
でも、そんな事をしゃべったら、殺されてしまうかもしれません。
だからグーティさんは、知らん顔をする事にしました。
間もなく、奥さんはお産の疲れもとれて、一人で赤ちゃんの世話が出来るようになりました。
グーディさんの仕事は、終わったのです。
「さあ、もう安心よ。あとは奥さん一人で、十分やれますよ。では、わたしを家へ帰してくださいな」
「もちろん」
男はグーディさんを、あの黒馬に乗せました。
すると馬は、あっという間にグーディさんの家に到着しました。
「これは、今までのお礼だ」
男はそう言って、グーディさんにたくさんの金貨を渡しました。
そして馬に飛び乗ると、すぐに走り去りました。
グーディさんはもらった金貨をながめると、気味の悪かった悪魔の家の事など忘れて言いました。
「何て気前のいいお客さまだろう。こんなお客さまが年に一度でも来てくれたら、わたしは大金持ちだよ」
次の日、グーディさんが市場へ買い物に出かけると、あの黒マントの男が歩いているのを見つけました。
「まあ、あの方だわ」
見ていると、男はあちこちの店から、ひょいひょいと色々な物を盗んでいます。
でも不思議な事に、だれの目にも黒マントの男が見えていない様子です。
(まさか泥棒? 関わるとやっかいそうだから、このままだまって通り過ぎようかしら。・・・でも、知らん顔をするのも失礼だし)
グーディさんが迷っていると、男が、ひょいとこちらを振り向きました。
それでつい、グーディさんは、
「こんにちは」
と、言ってしまいました。
そして、
「奥さんや赤ちゃんは、お元気ですか?」
と、言いかけて、グーディさんは口をつぐみました。
男が、あまりにも怖い顔でにらみつけたからです。
「お、お前には、わしの姿が見えるのか!」
「ええ、見えますとも」
「どっちの目で、見えるのだ!」
「右の目です」
「さては!」
男はグーディさんの右の目を、にらみつけました。
「あの塗り薬を塗ったな! 馬鹿な事を」
男はそう言うと、グーディさんの右目に手をかざしました。
そのとたんに男の姿は消えて、それっきりグーディさんの右目は、何も見えなくなったそうです。
おしまい
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