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10月27日の世界の昔話

ふしぎなブドウ

ふしぎなブドウ
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 むかしむかし、ある村に、とても心のやさしい娘がいました。
 この娘のひとみの一つが、ブドウのようにかがやいていたので、村の人びとは娘のことを「ブドウ姫」と、よんでいました。
 娘が十二才になったとき、お父さんとお母さんが病気でなくなってしまいました。
 娘は、おばさんの家にひきとられることになりました。
 このおばさんは、たいそういじわるな人で、いつも娘につらくあたっていましたが、ある日とうとう、娘を家からおいだしてしまったのです。
 しかし、娘は悲しんで泣いたりはしません。
 昼は村のガチョウのせわをし、夜は川のほとりのやなぎの木にもたれてねむりました。
 一人ぼっちの娘の友だちはガチョウたちで、さびしくなると、ガチョウをだいて歌をうたいます。
 するとガチョウたちも、娘の歌にあわせて「ガア、ガア」と、うたうのでした。
 それから一年ほどたったころ、おばさんに女の赤ちゃんが生まれました。
 この赤ちゃんは生まれつき、目が見えませんでした。
「ブドウ姫にいじわるをしたから、きっとバチがあたったんだ」
 村人たちは、こんなわるくちをいいました。
 おばさんは、くやしくてなりません。
 さて、お月見の夜のこと。
 娘は川岸にすわって、水にうつる月の光をボンヤリとながめていました。
 するとそこへ、おばさんが通りかかりました。
 町へお月見のごちそうを買いにいった帰りなのでしょうか。
 おいしそうなブドウがはいったカゴをかかえています。
「おばさん」
と、娘はいいました。
「わたしにそのブドウをひとふさわけてくださいな。朝からごはんをたべていないので、おなかがすいてなりません」
 おばさんは立ちどまり、おそろしい顔で娘をにらみつけました。
「そういえば、だれかがおまえの目を、ブドウのようだとかいっていたね。どれ、見せてごらん」
 おばさんはそういうと、いきなり砂をつかんで、娘の目の中にグイグイとすりこんだのです。
「キャーーーァ!」
 かわいそうに娘は、目をつぶされて川のほとりで泣きつづけました。
 泣きながらふと、むかしお母さんからきいた話を思いだしました。
「遠い山のなかに、野ブドウがなっているの。それはふしぎなブドウで、たべるとどんなに目のわるい人でもすぐになおるそうよ」
 娘はそのふしぎなブドウをさがそうと、川の流れにそってあるきはじめました。
「ふしぎなブドウさえ見つかれば、わたしの目も、おばさんの赤ちゃんの目もなおるし、ほかの目のわるい人にもきっとよろこんでもらえるわ」
 こうして十日もあるきつづけていると、とつぜん、クマのうなり声がしました。
 娘はそばの木によじのぼって、ジッとしていました。
 クマはグルグル木のまわりをまわっていましたが、そのうちに、むこうの谷のほうへ行ってしまいました。
 ホッとしていると、こんどはきゅうに、木がグラグラとゆれました。
 木の上に、一羽のタカがまいおりたのです。
 タカのつばさは木をスッポリとおおいかくしてしまうほど大きく、ツメは鉄の針のようでした。
 するどい刀(かたな)のようなくちばしで、木をつっつくたびに、木はガッガッと音をたててゆれます。
 娘はどうなることかと、ガタガタふるえていました。
 しかしタカは、娘に気づかずに、
「ギャオ!」
と、ないて、とびたっていきました。
 でもそのとき、風がピューとふいてきて、娘は木の枝からふきとばされてしまいました。
 地面に落ちたときに、足をくじいてしまったので、娘は、はっていくことにしました。
 こうして、また十日がすぎていきました。
 娘の着物はボロボロにやぶれ、顔や手に血がにじんでいます。
 ひどいつかれのために、娘の黒くつややかだった髪も、いつのまにかまっ白になってしまいました。
「どこまで行ったら、あのふしぎなブドウが見つかるのでしょう」
 娘は、なんどもあきらめて、ひき返そうとしました。
 しかしそのたびに、勇気をふるいおこして、前へ前へと進んでいきました。
「いちど心にきめたことは、さいごまでやりとおさなくては」
 そのうちに、つめたくてやわらかなものにぶつかりました。
 それは、大きなヘビでした。
 でも娘は目が見えないので、へいきでそのヘビの背中の上をまっすぐはっていきました。
 そのとき、ヘビがみぶるいをしたので、娘はあっというまにふかい谷底へまっさかさまです。
「ドシーン!」
 娘は谷底にたおれたまま、動くこともできません。
「わたし、このままここで死んでしまうのね。・・・お母さん」
 娘は、まぼろしのお母さんにむかっていいました。
 そのとき、娘の顔に、フワッと何かがふれました。
 さわってみると、草のつるのようなものです。
 そしてそのつるの先に、水の玉のようなものがぶらさがっていました。
 (もしかしたら)
 娘は水の玉をひきちぎって、そっとなめてみました。
 すると、いままでとじていた目がパッとひらき、光がいちどにとびこんできたではありませんか。
 水の玉だと思ったのは、さがしていたブドウだったのです。
 見えるようになった目で、あたりを見回してみると、いちめんにブドウがしげり、キラキラと光をはじいています。
 野の花がさき、小鳥たちが楽しそうにさえずっています。
「目が見えるということは、こんなにすばらしいことだったのね」
 娘はブドウのつるの上にすわって、歌をうたいはじめました。
 うたいながらブドウのつるで、カゴをひとつあみました。
「はやく村へかえって、目のわるい人たちに、ブドウをわけてあげましょう」
 カゴいっぱいブドウをつみおわったとき、あたりがきゅうに、くらくかげってきました。
「どうしたのかしら?」
 すると、うしろのほうから、
「おーい」
と、よぶ声がしました。
 ふりむいてみると、大男が山をまたいでくるところです。
 大男は肩に緑の布をまとい、頭に金のかんむりをかぶり、足に水晶(すいしょう)のクツをはき、手に銀のつえをもっています。
「娘よ。ここへ、なにしにきた!」
 高い高い空の上から、大男の声がひびいてきました。
 娘は、すこしもおそれずにいいました。
「はい、ふしぎなブドウをさがしに」
 大男はうなずいて、
「わしは、この森と草原と山の王だ。どうだ娘。わしといっしょに、このすばらしい国でくらさないか?」
と、娘をだきあげて、森をゆびさしました。
 そこには、めずらしい宝石がかぞえきれないほどたくさんきらめいていました。
「ここにあるくだものも、宝石も、みんなおれのものだ。どうだ。おれの娘にならないか。そうすればわしの城にすみ、しあわせにくらすことができるのだぞ」
「ありがとう。でも、わたしは村へ帰らなければなりません。村に帰って、目が見えなくて悲しんでいる人びとに、ブドウをあげなければ」
「バカもの!」
 大男はおこって、娘をふきとばしました。
 娘は空高くふきあげられ、星のきらめくなかをグルグルとまわって落ちてきました。
 大男は、娘をうけとめると、
「村へ帰っても、つらいことばかりだろう。どうだ。わしのそばでくらすか?」
「いいえ。わたしはどうしても村へ帰ります」
「・・・そうか、わしはおまえのようなこころのやさしい、すばらしい娘とくらしたいと思っていた。だがあきらめよう。さあ、村へ帰るがいい」
と、娘に一本の緑の小枝をわたしました。
 大男からもらった緑の小枝をにぎりしめると、風のように早く走ることができました。
 娘はブドウのカゴをかかえて、なつかしい村へ帰っていったということです。

おしまい

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