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福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話
アルキメデスの新兵器
むかしむかし、アルキメデスという名前の天才数学者がいました。
彼の発見した法則や原理は、今の科学でも欠かすことの出来ない物となっています。
このお話しは、その天才数学者、アルキメデスのお話しです。
アルキメデスが生きていた時代、一番の大国はローマでした。
そのローマ軍が『ローマの剣』と呼ばれる、もっとも優れたマルケルス将軍に命令して、アルキメデスの住むシラクサを占領しようとしたのです。
七万六千人を超える大軍のローマ軍にとって、ちっぽけなシラクサの城など一気に攻め落とせると思っていました。
でも、そう簡単にはいきません。
シラクサ王ヒエロン二世が、アルキメデスを軍事技術長に任命したのですから。
(まあ、さすがにローマ軍に勝つ事は出来ないだろうが、わたしの力を持ってすれば、負ける日をのばす事は出来るだろう)
アルキメデスは正直言って、この戦争に乗り気ではありませんでした。
しかし自分の考えた技術を国の予算で実現出来る事に、科学者として魅力を感じていたのです。
「まずは小手調べに、簡単な物から行くか」
アルキメデスは城の城壁に小さな穴を開けると、そこから弓矢を射ることを命じました。
「この小さな穴からは広い範囲を攻撃出来るが、反対にこの小さな穴をねらう事は至難の業だろう」
これは日本の城でも使われた簡単な方法ですが、効果は抜群です。
城壁の小さな穴から飛んでくる矢に、多くのローマ兵士たちはバタバタと倒れました。
「敵には、あのアルキメデスがいる。これはあやつの新兵器だ。いったん退却!」
退却したローマ軍に、アルキメデスは満足げに言いました。
「よしよし、次はもっと大がかりな物で行こう」
やがて体制を整えたローマ軍は、弓を防ぐ大きな盾を一列に並べて、ゆっくりと城へ攻めてきました。
これでは、いくら弓矢を放っても効果がありません。
ローマ兵士が安心して進んでいると、今度は何と、大きな岩の固まりが城からビュンビュンと飛んできたのです。
いくら大きな盾でも、この岩を防ぐ事は出来ません。
この岩によって、またまた多くのローマ兵士が倒れました。
実はこの岩はアルキメデスが作らせた投石機が放った物で、滑車とテコの原理を利用して、五百キロの大岩を投げる事が出来たそうです。
二度にわたる矢と石の攻撃に、ローマ兵士たちの間でこんなうわさが広まりました。
「アルキメデスは人ではなく、神の化身だ。このままでは、ローマ軍は全滅してしまうぞ」
実はこのうわさ、アルキメデスがスパイを使ってローマ軍に広めたのだと言われています。
このうわさは弓矢や投石機以上に効果があり、ローマ兵士はいくら将軍が命令しても、なかなか攻め込もうとはしませんでした。
こうしてローマの陸軍には勝利したのですが、ローマには無敵を誇る大艦隊がいます。
「そろそろ、ローマの大艦隊が登場する頃か。では、あの手でいくか」
アルキメデスは大きな鏡を何枚も用意させると、それを城壁に並べました。
そして近づいてくる敵艦を見つけると、アルキメデスは鏡を持つ兵士たちに命じました。
「よし、あの先頭の船に鏡の光を向けよ。狙いは、船首の黒く塗られた部分だ!」
すると鏡の光に当たった敵艦の一隻が、パッと火を噴いて燃え上がったのです。
これには、敵も味方もびっくりです。
「アルキメデスよ、これは一体、どういう魔法だ?」
たずねる王さまに、アルキメデスは答えました。
「なあに、ただ鏡の光を一点に集めただけです。
光というものは明るいだけでなく、熱も持っています。
この光を鏡を使って集めれば、船を燃やすぐらい簡単です。
ちなみに黒い色は白い色よりも光を吸収するので、先ほどのように黒い部分を狙えばより効果的です」
それを聞いた王は、今さらながらにアルキメデスの知識に舌を巻きました。
さて、一方のローマ軍ですが、ローマ軍の中にも科学の知識がある者がいたのか、太陽の光がある間は攻めようとはせず、しばらくして雲が太陽を隠すと、また攻め込んできたのです。
「ほう、ローマにも、頭の切れる奴がいるな」
アルキメデスは少し感心したようですが、その顔はまだまだ余裕です。
「では、次の兵器を用意しろ」
アルキメデスの命令に、城壁から大きなクレーンのような物が出てきました。
そのクレーンはスルスルと腕を伸ばすと、先に付いたかぎ爪でローマ軍の船を引っかけ、船を勢いよく持ち上げると、船を海の底に沈めてしまったのです。
これにはさすがのローマ大艦隊も、あわてて退散しました。
その後、アルキメデスは神の化身だといううわさはますます広まって、ついにはアルキメデスがただの棒きれを城壁から突き出すだけで、ローマ軍は新兵器だと勘違いして逃げていったそうです。
おしまい
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