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12月24日の世界の昔話
三つの願い
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むかしむかし、町のはずれに、主人とおかみさんだけでやっている、小さな料理屋がありました。
この夫婦は、とくべつに金持ちではありませんが、毎日の食べるものには不自由せず、健康にもめぐまれて、幸せにくらしていました。
ある日の夕方のこと、金ピカの服を着た、伯爵(はくしゃく)と伯爵夫人(はくしゃくふじん)が、金の馬車(ばしゃ)にのって、料理屋のまえを通りました。
それを見て、おかみさんがいいました。
「あの人たちみたいに、わたしも一度でいいから、すてきなボウシをかぶり、耳かざりをして、馬車にのってみたいものだわ」
すると、主人もいいました。
「そうだな。何をするのにも、めしつかいに手つだってもらい、いばっていられたら、いうことはないさ」
このおかみさんはスタイルがよく、目のパッチリとした色白の美しい人でした。
「ねえ、おまえさん。わたしが真珠(しんじゅ)の耳かざりをして、なぜいけないのさ」
「そりゃ、いけないっていうことはないさ。そんなこというんなら、おれだって毎日、おいしい酒をあびるほど飲んで、楽しくくらしたいさ」
こんなことをいっているうちに、二人には自分たちの生活が、急にみすぼらしく見えてきたのです。
家のまえを通る貴族(きぞく)を見るたびに、うらやましい気持ちがおこり、とたんに自分たちには、苦労ばかりしかないように思われてきたのです。
おかみさんは、ため息をつきながらつぶやきました。
「こういう時に仙女(せんにょ)がいてくれたらねえ。仙女が魔法のつえをひとふりすれば、たちまちねがいがかなうっていうのはどうだい?」
こういったとたん、家の中にサッと光のようなものがさしこんだのです。
二人はおどろいて、ふりかえってみたのですが、だれもいません。
しかし、家の中には、たしかに人の気配を感じるのでした。
「なんだか、気味が悪いね」
二人が顔を見あわせていると、そこへスーッと、女の人があらわれたのです。
「あなたたちの話は、みんな聞きました。もう、ふへいをいう必要はありません。ねがいごとを三つ、口でとなえなさい。注意をしておきますが、三つだけですよ」
仙女はそれだけいうと、スーッと消えました。
主人とおかみさんは、しばらくポカンと、口をあけたままでしたが、やがて主人が、ハッとしていいました。
「おいおい、おまえ、聞いたかい!」
「ええ、たしかに聞きました。三つだけ、ねがいがかなうって」
二人はおどろいていましたが、だんだんに、うれしさがこみあげてきました。
「えへヘへへ。ねがいごとは三つだけか。そうだな。一番はやっぱり、長生きできることだな」
「おまえさん、長生きしたって、はたらくばかりじゃつまらないよ。なんといっても、金持ちになるこったね」
「それもそうだ。大金持ちになりゃ、ねがいごとはなんでもかなうからな」
二人は、あれこれ考えました。
「ねえ、おまえさん、考えてたってはじまらないさ。急ぐことはないよ。ひと晩ねれば、いい知恵(ちえ)もうかぶだろうよ」
こうして二人は、いつものように仕事にとりかかりました。
しかしおかみさんは、台所仕事をしていても、三つのねがいごとばかりが気にかかって、仕事がすすみません。
主人のほうも、ブドウ酒やごちそうが目のまえにちらついて、仕事がすすみません。
長い一日がおわって、夜になり、二人はだんろのそばに腰をおろしました。
だんろの火はごうごうもえ、あやしい光をなげかけていました。
おかみさんは、だんろの赤い火につられて、思わずさけびました。
「ああ、なんて美しい火だろう。この火で肉をあぶりやきしたら、きっとおいしいだろうね。今夜はひとつ、一メートルもあるソーセージでも食べてみたいもんだわ」
おかみさんがそういいおわったとたん、ねがいごとがかなって、大きなソーセージがバタンと、天井からおちてきました。
すると、主人がどなりました。
「このまぬけ! おまえの食いしんぼうのおかげで、だいじなねがいごとを使ってしまった。こんなもの、おまえの鼻にでもぶらさげておけ!」
主人がいいおわるかおわらないうちに、ソーセージはおかみさんの鼻にくっついてしまいました。
あわててひっぱってみましたが、どうしてもとれません。
きれいだったおかみさんの顔は、長いソーセージがぶらさがって、見られたものではありません。
おかみさんは、大声でなき出しました。
それを見て、主人はいいました。
「おまえのおかげで、だいじなねがいごとをふたつもむだにしてしまった。さいごはやっぱり、大金持ちにしてほしいとおねがいしようじゃないか」
おかみさんはなきじゃくりながら、足をドタバタさせました。
「おだまり! もうたくさんだ。さいごのねがいは、たったひとつ。どうぞ、このソーセージが鼻からはなれますように」
そのとたん、ソーセージは鼻からはなれ、おかみさんはもとの美しい顔にもどりました。
それから二人は、二度と不平などいわず、今のくらしをたいせつにしたということです。
おしまい