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3月12日の小話
越後屋
むかし、おしこみ強盗の一団がおりました。
ある晩、江戸一番の越後屋呉服店(えちごやごふくてん→今の三越の前身 →詳細)へおしこむことにきまりました。
親分は、手下(てした→子分のこと)のものを見わたして、
「よいか。人にけがをさせて、反物(たんもの→服)をよごしたのでは、金にならん。店のやつは、かたっぱしからさるぐつわ(声を立てさせないように、手ぬぐいなどを口にかませて、後頭部にくくりつけること)をはめ、柱にしばりつけろ。そのうえで、全部持ち出すんだ。いいな」
「へえ」
そこで、用意万端(よういばんたん→よういが完全な事)ととのえ、夜ふけを待って、越後屋ヘ押し入りました。
「お店にどろぼうだー!」
と、走りでてくる番頭に手代。こぞうに下男。お針に女中。
出てくれば、ふんじばり、出てくれば、ふんじばり、かたっぱしから、ふんじばっては柱にくくりつけました。
けれども、さすがは天下の越後屋。
出てくるわ、出てくるわ、いくらしばっても、しばりつくせません。
そのうち、あたりが白んで、
カァカァ
と、カラスの声。
「そりゃ、夜があけた」
「つかまっては、たいヘん」
とうとう、おしこみ強盗の一団は、何一つ取らず、逃げ出したそうな。
おしまい