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9月6日の日本民話
  
  
  
  鬼子母神さま
  埼玉県の民話 → 埼玉県情報
 むかしむかし、狭山(さやま→埼玉県南部)に、ある村がありました。
   ある日の事、子どもたちが遊んでいると、とつぜん大きなつむじ風がふきおこったのです。
  「子どもはどこだ! 子どもはどこだ!」
   村に子どもをさらう、鬼女(おにおんな)が現れたのです。
  「鬼女だ!」
   風の中から現れた鬼女は、子どもを一人さらっていきました。
   それからは夕方になると毎日のように鬼女が山からやってきて、子どもをさらっていくのです。
  「子どもはどこだ! かくれても、においでわかるぞ! くんくん。そこだなー!」
   子どもをどこにかくしても、鬼女は鼻がいいので、においで見つけられてしまいます。
   子どもたちの声でにぎわっていた村は、ひっそりとさびしい村になってしまいました。
   村の人たちは、何かいい方法はないかと相談して、お釈迦(しゃか)さまにお願いすることにしました。
   次の日、村人たちは、お釈迦さまのいるという山にのぼっていきました。
   やがて雲のあいだから姿を現したお釈迦さまに、村人たちは手をあわせてお願いしました。
  「村に鬼女がやってきて、子どもをさらっていくのです。どうかお助けくださいませ」
   すると、お釈迦さまはいいました。
  「わかりました。わたしが何とかしますから、どうぞ安心なさい」
   お釈迦さまがさっそく鬼女のところへいってみると、鬼女にさらわれてきた子どもたちが穴ぐらの中で泣いていました。
   このひどい鬼女ですが、この鬼女にも自分の子どもがいるのです。
   それも一人や二人ではなく、なんと一万人もです。
   その子どもたちを、鬼女は、
  「おお、わたしの子はなんてかわいいんじゃろう」
  と、だきしめるのです。
   それを知ったお釈迦さまは、鬼女が出かけたすきに鬼女の子どもを一人つれて帰ったのです。
   さあ、自分の子どもが一人たりないことに気がついた鬼女は、
  「わたしの子どもが一人いなくなった! どこへいったの?」
  と、くるったようにわが子をさがしまわります。
   そこへ、お釈迦さまが姿を現しました。
  「ああ、お釈迦さま。ちょうどよいところに。実はわたしのかわいい子どもが、一人いないのです」
   するとお釈迦さまは、しずかにいいました。
  「それはかわいそうに。・・・ところで鬼女よ。お前は一万人も子どもがいるが、一人でもいなくなるとそんなに悲しいのか?」
  「はい、それはもちろんでございます」
  「そうであろう。親とはそういうものだ。しかしそれなら、お前に子どもをさらわれた人間たちの気持ちも、わかるのではないか?」
  「・・・あっ!」
  「そうだ。子どもがいなくなったお前同様、人間たちも子どもがいなくなって悲しんでいるのだ。すぐに子どもたちを帰してやりなさい」
   お釈迦さまはそういうと、鬼女の子どもを返してやりました。
  「お許しください! わたしがわるうございました!」
   すっかり心を入れかえた鬼女は、子どもたちを村へ帰したのです。
   それから鬼女はお釈迦さまの弟子となり、鬼子母神(きしぼじん)となって、安産と子どもを病気からまもる神さまになったという事です。
おしまい