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12月2日の日本民話
  
  
  
  人魚が教えてくれた秘密
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 むかしむかし、とても美しい浜辺がありました。
   ある日の夜、仕事の終わった若者たちが、この浜辺でお酒を飲んでいると、海のほうから美しい歌声が聞こえてきました。
  「なんてすてきな歌声だ。いったい、誰が歌っているのだろう」
   若者たちは海を見ましたが、海の上には船もありません。
   でもたしかに、歌声は海の方から聞こえてくるのです。
   若者たちはお酒を飲むのもわすれて、いつまでも聞きほれていました。
   そんなことがあってから、何日かすぎたころです。
   若者たちが魚をとっていると、なんとアミに人魚がかかったのです。
   みんなは、大喜びです。
  「これはめずらしいものがとれたぞ。見せ物にしてもいいし、お金持ちに売りつけてもいい。とにかく大もうけが出来るぞ」
   すると、人魚がなみだをこぼして言いました。
  「おねがいです。どうかこのまま、海へもどしてください」
  「いや、そうはいかん。せっかく手に入れためずらしいものを、逃がすわけにはいかん」
   ガッカリした人魚はなみだをふくと、しずかに歌をうたいはじめました。
   なんとその声は、いつか浜辺で聞いたものと同じです。
  「あの歌声は、お前が歌っていたのか」
   若者たちはおどろいたように、人魚を見つめました。
   美しい歌声はたちまち若者たちの心をとらえて、だれもがうっとりと夢を見ているような気持ちになりました。
   やがて歌い終わると、人魚が言いました。
  「もし、わたしを助けてくださるのなら、海の秘密を教えてあげます」
  「なに、海の秘密だと?」
   若者たちは、顔を見合わせました。
  「よし、いいとも、助けてあげよう」
  「ありがとうございます」
   人魚はうれしそうにニッコリ笑うと、船から海に飛び込んで言いました。
  「実は、明日の朝に大津波(おおつなみ)が村をおそいます。今日のうちに、山へ逃げてください」
   それを聞いた若者たちは、あわてて村の人たちに人魚の言った事を知らせました。
   村の人たちは、すぐに身のまわりの物を持って山の上へ逃げました。
  「さて、ほかの村の人たちにも知らせてやらなくちゃ」
   若者たちは手分けして、人魚から聞いた津波の事を知らせに行きましたが、どの村へ行っても、
  「そんなバカな。人魚なんているはずないだろう」
  と、誰も信じてはくれません。
   若者たちはしかたなく、山の上へ逃げていきました。
   そして次の日の夜明け、人魚の言ったとおりに、誰も見たことがないような大津波がおそってきて、浜辺の村はあっというまに海へ引きこまれてしまいました。
   でも若者たちの村では、人魚のおかげで、誰一人死んだ者はいなかったという事です。