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12月14日の日本民話
  
  
  
  お坊さんにばけた古ダヌキ
  福井県の民話 → 福井県情報
 むかしむかし、あるいなかのお寺に、一人のお坊さんがやってきました。
   京の都からやってきた、りっぱなお坊さんだというので、お寺には村中の人たちが集まりました。
  「きっと、ありがたいお話を聞かせてくださるにちがいない」
  「おとなしく聞かないと、ばちがあたるぞ」
   村人たちはお堂の中にならんで座ると、お坊さんが出てくるのを、今か今かと待っていました。
   やがて一人のお坊さんが出てきて台の上にあがり、仏さまのお話を始めました。
   ところが不思議な事に、お坊さんの耳がピクピクと動くのです。
   ちょうどそこヘ、村の宿屋にとまっている猟師が、
  (京から来たというのは、どんなりっぱなお坊さんだろう?)
  と、思って、お寺へやってきました。
   猟師はしょうじに指で穴をあけると、そっとお堂の中をのぞきました。
   見た感じはとてもりっぱなお坊さんですが、お坊さんの耳がピクピク、ピクピクと、動物のように動くのを見て、猟師はビックリしました。
   もう一度よく注意してお坊さんを見てみると、ときどき顔の上にも、スーッと毛がはえるのです。
  (こいつは、きっと)
   猟師はこっそりお寺をぬけだすと、急いで宿屋にもどり鉄砲を持ってきました。
   しょうじの穴から鉄砲の先をさし込むと、お坊さんにねらいをつけて、
   ズドーン!
  と、撃ちはなったのです。
   そのとたん、お坊さんは台の上から転がり落ちました。
  「だれだ! 鉄砲を撃ったのは!」
   お堂の中は、大変なさわぎです。
  「何て事をするのだ! お前は頭でもおかしくなったのか!」
  「よりにもよって、お坊さんを撃つなんてゆるさん!」
   みんなはいっせいに、猟師をとりかこみました。
  「ま、待て!」
   猟師が、言いました。
  「あいつはお坊さんなんかじゃない。人をだまして食い殺す、おそろしい古ダヌキだ。うそだと思うのならよく見てみろ」
   そう言われて村の人たちは、いっせいにお坊さんのところへかけよりました。
   胸を撃たれたお坊さんが、あおむけになって死んでいます。
  「何が古ダヌキだ。まちがいなく、りっぱなお坊さんだ」
  「いや、まちがいなく古ダヌキだ。朝までにはきっと正体をあらわすはず。万一、本当のお坊さんであったなら、わしをどんな目にあわせてもかまわん」
   さてそのうちに、だんだんと夜が明けてきました。
   すると、どうでしょう。
   お坊さんの足先から、けもののような毛がはえてきて、みるみるうちに体中が毛だらけになりました。
   そしてニワトリが鳴き出したころには、まるまるとふとった古ダヌキの姿に変わったのです。
  「なんと。猟師のいうとおりだ」
  「この人がいなかったら、みんなどんな目にあわされていたかもしれないぞ」
 村人たちは死んでいる古ダヌキを見て、ホッと胸をなでおろしたという事です。
おしまい