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12月30日の日本民話
  
  
  
  バケモノすっとびかご
  大阪府の民話 → 大阪府情報
 むかしむかし、ある秋の夕ぐれのことです。
   村はずれの松の老木(ろうぼく)の下に、カゴが一ちょうおいてありました。
   女の人をのせる、美しいかごです。
   それを、たきぎをひろいにきた二人の男の子が見つけました。
  「りっぱなカゴだな。いつからおいてあったんだ?」
   カゴを見つけた子どもに、知らせをきいてやってきた村の男たちがたずねました。
  「おいらがここへきたときは、なかったんだ。たきぎをひろってかえろうとしたら、おいてあったんだ。中で音がしたから開けてみようとしたら、きれいな若い女の人が顔をだしたんだ」
  「人さわがせだな。カゴかきはどこへいったんだろう? まさか、カゴが一人でここへきたわけではあるまい。ちょっと中の人にきいてみよう」
   一人の男がそういいながら、カゴの戸に手をかけようとすると、戸がするするとひらいて、中から女の人が顔をのぞかせました。
  「あれ?!」
   カゴの中から顔をのぞかせたのは、頭に白いものがまじった色の白い女の人です。
   きらびやかなきものをきてはいますが、とても、若いきれいな娘ではありません。
   あたりがくらくなってきているので、男は子どもたちが年をみまちがえたのだと思いました。
  「あの、あなたさまは、どちらのお屋敷のおかたですか? それからこんなところに、どうしていらっしゃるのですか? カゴかきがにげてしまったというのなら、わたしたちがお屋敷までお送りいたしますが」
   男はいろいろたずねましたが、カゴのなかにいる女の人はだまっています。
   何を聞いても、返事一つしないのです。
   そして、上目づかいに村の男たちを見ながら、ときどきうすきみわるい笑みをもらしていました。
  「・・・。このおかたは口がきけないんだろう。しかたがないから、このままにしておこう」
   あたりがくらくなると、女の人の白い顔が、ますます気味悪く見えてきます。
   男たちはカゴをそのままにして、帰っていきました。
   けれども、やっぱり気になります。
  「あのあたりは、夜になるとオオカミが出るところだ。ほうっておいたら、食われてしまうぞ。なんともうすきみわるい人だが、今夜ひと晩だけでも、わしらで番をしてやろう」
   村の男たちは相談をすると、五人ばかりの若者をえらびました。
   そして、たいまつをともしながら、村はずれの松の木の下へでかけていきました。
   すると、カゴはもうどこかにきえていました。
  「おや? カゴかきどもが、もどってきたんだな。きっと酒でものみにいったんだろう。まったく人さわがせなことだ」
  と、ぶつぶつ文句をいいながらも、ひと安心して男たちがもどってくると、
  「おい、おい。あのカゴが河原にあるとよ。馬子(うまこ→ウマをひいて人や荷物を運ぶことを仕事とする人)たちがカゴの中をのぞこうとしたら、十七、八の、みたこともないような美しい娘が顔をだしたとよ」
  「な、なんだと?」
   男たちは、顔をみあわせました。
   男たちの見たのは、たしかに年老いた女の人でした。
  「そんなばかな。おれ、みてくる」
  「おれもいく」
   今度は河原めざして、走っていきました。
   すると途中のお宮のうらの松の木の下に、あのカゴがありました。
  「おかしいな。こんなところにカゴがあるぞ」
   男たちがおそるおそるカゴに近づくと、カゴの戸がするすると開きました。
   そして中から、
  「ぎゃあー、出たー!」
   男たちはビックリして、逃げだしました。
 カゴの中からでてきたの、娘と、老婆と、のっぺらぼうと、二匹のヘビだったのです。
おしまい