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2月20日の世界の昔話

リスとマツの木

リスとマツの木
アメリカの昔話 → アメリカの国情報

 むかしむかし、インデアンの村に、ジーニという若者がいました。
 ジーニは遠くの村から、お嫁さんをもらいました。
 ある晩、ジーニがこわい夢を見て目をさますと、お嫁さんの姿が見えません。
 でも朝になると、いつのまにか、お嫁さんはかえってきていました。
 つぎの晩、ジーニは目をつぶって、ねたふりをしていました。
 すると、どこからか大きい黒ネコがあらわれて、
「おい、早くこい。みんな、あつまっているぞ」
と、お嫁さんに小声でいいました。
 お嫁さんは、ジーニがよくねむっているのをたしかめると、家をそっとぬけだしました。
 ジーニも、いそいであとをつけていきます。
 お嫁さんと黒ネコは、ある大きな山のほら穴につきました。
 そこでお嫁さんは、パッと、モモ色のネコにばけると、そのほら穴の中へとびこみました。
 なんとお嫁さんは、おそろしい魔法使いの仲間だったのです。
 中では、まっ赤な火がもえており、その上に大ナベがかかっています。
 まん中にすわっているのが、魔法使いの親分でした。
 子分たちは、ネコやオオカミフクロウやハゲタカなどの姿にかわって、火のまわりをかこんでいました。
 ジーニは、ほら穴をのぞきこんでいるところを、フクロウにみつかってしまいました。
 そして魔法使いの親分のまえに、ひきずりだされました。
「ここへきたものは、生きてかえすわけにはいかないぞ! だが、もしもおまえの母親と妹の心臓をもってきたら、命をたすけて仲間にしてやろう」
 魔法使いの親分は、おそろしい声でいいました。
 村にもどったジーニは、村で一番物知りのおじいさんにそうだんしました。
「魔法使いには、ヤギの心臓をもっていってごらん」
 こういうと、小さいおまもりの貝がらをジーニにわたしました。
「この貝は、おまえの命をまもってくれるだろう。大切にもっていなさい」
 さて、夜になると、ジーニはヤギの心臓をもってほら穴へでかけていきました。
 魔法使いの親分は、その心臓を大ナベに入れて煮(に)ました。
 すると、ナベの中で、
「メー、メー、メー」
と、ヤギのなき声がしました。
「ほほう。おまえの先祖はヤギだというのか。よし、家へかえってねてしまえ」
 親分が、どなりました。
 ジーニはホッとして家へかえると、グッスリとねました。
 ところがジーニは、すでに魔法をかけられていたのです。
 よく朝、ジーニが目をさますと、高い高いがけの、せまい岩だなの上にねていました。
 岩だなの上も下も、何百メートルもある岩のかべでした。
 のぼることもおりることも、からだを動かすことさえできません。
 ジーニは、ジッと岩だなにねていました。
 ひるまは、やけるように暑いお日さまがてりつけます。
 夜は寒くて、こおってしまいそうです。
 おなかはすくし、のどがかわいて、からだがドンドンとよわっていきました。
 おじいさんにもらったおまもりの貝がらがなかったら、ジーニは、とっくに死んでしまったことでしょう。
 貝がらが、命だけはまもってくれたのです。
 ある日、ジーニの足の上に、なにかがとびのりました。
 それは、一匹の子リスでした。
「お母さん、人が死んでるよ」
 子リスがよぶと、お母さんリスも出てきました。
 ジーニは、目をあけました。
「おや、まだ生きているようね」
 そういうと、お母さんリスは、トウモロコシの粉を水でといておかゆをつくり、しいの実のからに入れてはこんできました。
「さあ、たべて、元気をだしなさい」
 お母さんリスは、やさしくいいました。
 リスの親子は、何回も何回も、おかゆをはこびます。
 やがてジーニは、おなかがいっぱいになりました。
 それから、杉の枝をジーニの頭にのせて日よけをこしらえたり、木の皮でふとんまでつくってくれました。
 毎日、子リスはジーニのおなかの上で、おしゃべりしたり、おもしろいインデアンおどりをおどりました。
 やがてジーニは、子リスがおどると、
「ヤ、ホー。ヤ、ホー」
と、かけ声をかけたり、手をたたけるくらい、元気になったのです。
 ある日、お母さんリスが、マツかさを一つかかえてかえってきました。
 それをジーニの足もとから、がけ下へおとすと、
♪マツの木、マツの木、大きくなーれ。
♪マツの木、マツの木、大きくなーれ。
と、大声で、うたいました。
 つぎの日の朝、ジーニはがけの下を見おろしました。
 すると、はるか下に、草原と小川が見えました。
 そして草原に、一本の小さいマツの木がはえていました。
 そのマツの木は、グングンと大きくなりました。
 何日かたつと、とうとう、マツの木の先は岩だなのところまでのびてきました。
 つぎの日には、岩だなをこして、見あげるばかりの大木になったのです。
「ジーニ。この木をつたって、下へおりるんですよ」
 お母さんリスが、いいました。
 ジーニはよろこんで、ふとい枝をつかむと、マツの木にとびうつりました。
 リスの親子も、下までいっしょにおくってくれます。
「リスよ、ありがとう。親切はけっしてわすれはしない」
と、ジーニはお礼をいいました。
「うちへかえったら、これをお嫁さんにたべさせなさい」
 こういって、お母さんリスがマツのタネをジーニにくれました。
 ジーニがぶじにかえったので、お嫁さんはたいそうビックリしました。
「これは、おみやげだ」
と、いって、ジーニがマツのタネをわたすと、お嫁さんは、よろこんでたべてしまいました。
 その日の夕方、ジーニが狩りからかえってくると、どうでしょう。
 ジーニの家の屋根をつきぬけて、二本のマツの木が空にそびえているではありませんか。
 家のかべをつきやぶり、ふとい枝も四方へのびています。
と、パーン、と音がして、目のまえで家がはれつしてしまいました。
 そのマツの木は、ドド、ドド、と、なき声をたてていました。
 マツのタネをたべたわるいお嫁さんは、マツの木になってしまったのです。
 ジーニはあたらしいお嫁さんをもらって、しあわせにくらしました。

おしまい

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