夜泣き・おねしょのおくすり童話 福娘童話集
 


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ロバとおじいさん

ロバとおじいさん
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 むかしむかし、とても正直者のおじいさんがいました。
 このおじいさんは、うそというものを知りません。
 世の中にはうそつきがいるということも知らないので、生まれてから一度も、人をうたがったことがありませんでした。
 ですから、このおじいさんは、よく人にだまされました。
 でも、いくらだまされても、だまされたと思っていないのです。
 ある日、おじいさんは長いことかっているロバをつれて、市場へ買い物に出かけました。
 ところがドロボウたちがそれを見て、ヒソヒソと相談をはじめたました。
「しめしめ、正直おやじが通るよ。ちょうどいい。あのロバを手に入れようじゃないか。みんな、ちょっと耳をかせ」
 ドロボウたちは、そっと足音をしのばせて、おじいさんのひくロバのうしろへしのびよりました。
 でも、おじいさんはまったく気がつきません。
 世の中に悪者がいるなんて知らないのですから、ちっとも用心しないのです。
 鼻歌を歌いながら、のんきに歩いていました。
 ドロボウたちは、ロバをひいていたたづなをほどいて、仲間の一人の首にむすびつけました。
 そしてほかのドロボウたちは、さっさとロバをひいて、どこかへいってしまったのです。
 しばらくすると、首にたづなをつけたドロボウが、道のまん中で急にたちどまりました。
 おじいさんはまえをむいたまま、グイグイたづなをひっぱりますがドロボウはまったく動きません。
「おいおい、どうしたんだい?」
 ふりむくと、いつのまにかロバが人間にかわっています。
「うひゃ! ロバが人問に化けた!」
 おじいさんは、ビックリして腰をぬかしそうになりました。
 するとドロボウは、悲しそうな顔でいいました。
「おやさしいだんなさま、どうぞそんなにビックリなさらないでください。じつはわたしは、もともとは人間だったのでございます。ところがある時、たいそう悪いことをしでかしてしまいました。その時、母がわたしをしかって『ロバになっておしまい』といったのです。そのとたんに、神さまはわたしをロバにかえてしまわれました。やがてわたしは、だんなさまにかわれて、長いあいだおつかえしてまいりました。ところが、さっきとつぜん魔法がとけたのです。きっと神さまがわたしを、おゆるしくださったのでしょう。ああ、うれしい。やっと人間にもどれたのです」
 この話を聞くと、正直者のおじいさんは、ポロポロと涙をこぼしました。
「それは気のどくなことをしました。どうかゆるしてください。そんなこととは知らず、わたしはあなたをこきつかったり、ムチでたたいたりしてしまいました。本当に長いこと、よくはたらいてくれてありがとう」
 おじいさんはドロボウに何度もおじぎをして、たづなをほどきました。
「さあ、これからはすきなところへいって、幸せにくらしてください」
 ドロボウは横をむいてニヤリとわらうと、急いで仲間のところへ走っていってしまいました。
 つぎの日、おじいさんは市場へかわりのロバを買いにいきました。
 ところが市場につくと、人間にもどったはずのロバが、おじいさんの顔を見てすりよってきたのです。
 おじいさんは、こわい顔で、
「おまえ、どうしたんだ! きっとまた神さまをおこらせたんだな。そしてロバにされたんだろう。もうおまえの顔なんか、見たくないよ!」
と、いったのです。

おしまい

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