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10月24日の世界の昔話

魔術の本

魔術の本
エジプトの昔話 → エジプトの国情報

 むかしむかし、あるところに、サトニ・力ーメスという、ふしぎな王子がいました。
 この王子は、ふつうの人にはわからない魔術(まじゅつ)の本がよめるし、魔法(まほう)もつかえるのです。
 ある日、王さまのところへきた学者がいいました。
「王子さま。神さまのかいた魔術の本を、ほしくはないですか?」
「ほしい! どんな魔術なの? 本はどこにあるの?」
「本には呪文(じゅもん)が書いてあり、はじめのをとなえると、山や海に魔法がかけられます。つぎをとなえると、死んでも地の底で生きられるのです。その本は、ネフェルカプタハ王子のお墓の中にあります」
 王子のサトニは、すぐに王さまのところへとんでいって、この話しをしました。
「ぼく、神さまのかいた魔術の本がほしいんです。どうか、弟と行かせてください」
 すると王さまは、ニッコリわらっていいました。
「では、気をつけていきなさい」
 サトニがよろこんでへやからでてくると、さっきの学者がきました。
「王子さま。用心しないとあぶないですよ。このほこと、たいまつをもっていってください」
「うん。ありがとう」
 サトニと弟のアンハトホルラーはしたくをすると、教えてもらった墓場へつきました。
「これはすごい数だ!」
「そうだね。さがすのが、たいへんだよ」
 二人は順番に調べていきましたが、ネフェルカプタハ王子のお墓は、なかなか見つかりません。
 つぎの日も、一日さがしましたが見つかりません。
 でも、とうとう三日目のあるとき、
「あっ、あった! ここに、ネフェルカプ夕ハ王子の墓とかいてある」
「でも、どうやって中へはいるの?」
「大丈夫。ぼくにまかせて」
 サトニが呪文をとなえると、目の前の地面がバカッとわれました。
「さあ、はいるんだ」
 お墓の中は、まるで大広間のようでした。
 たいまつの火でてらしながら、サトニとアンハトホルラーはすすんでいきます。
「おや? あそこにあかりがみえる」
 近づくと、死んだ人間のミイラが三つならべてありました。
 ミイラのあいだには、本がみえます。
「あれが、神さまのかいた魔術の本だな」
 サトニが本をとろうとすると、そばのミイラが、きゅうにたちあがりました。
「だれだ! これは、とってはいけない」
「ぼくは、ウシルマリ王の王子、サトニだ。悪いが、この本をもらっていくぞ」
 サトニが、本を持っていこうとすると、
「おねがい。もっていかないで。わたしは、ネフェルカプタハ王子のきさきです。王子が神さまの本をほしがったために、わたしたち親子三人は、地上での命をなくしてしまったのですから」
 おきさきは、かなしそうにたのみました。
「どんなめにあったの?」
「王子は、神さまの本がコプトスのちかくのナイル川のそこにあるときいたのです。それで、わたしもついていきました」
「それから、どうしたの?」
「コプトスにつくと、王子は人形の水夫(すいふ)を作りました。呪文をとなえると人形はうごきだして、川をさがしはじめたのです。そして三日目に、本のはいっている金のはこをもってあがってきたのです」
「それは、すばらしい」
「王子はよろこんで、川ぎしにかえっていきました。でも、わたしと子どもは神さまのいかりで、川におとされてしまったのです。かなしんだ王子は、たいせつな本をだいて水にとびこみました。それで三人は、こうして本とお墓にいるのです。ですから、どうぞもっていかないでください」
「うーん。それは気のどくだが、ぼくは神さまの魔法が知りたいんだ。悪いけど、本はもらっていくよ」
と、いって、サトニが手をだそうとすると、となりの男のミイラが、ガバッと、おきあがりました。
「サトニよ。きさきがいま、わたしたちのかなしいはなしをしたのに、それでももっていくというのか? ・・・だったら、イヌしょうぎできめよう。もしきみがかったら、本はあげよう」
 二人は、しょうぎばんのまえにすわりました。
 でも、ネフェルカプタハ王子のつよいこと。
「サトニ、きみのまけだ。バツとして、あなにはいるんだ」
 ネプェルカプタハは、土の中にサトニを足までおしこみました。
「おにいさん、しっかりして」
 そばから、弟がおうえんします。
「よし、こんどこそ勝つからな」
 サトニは、二度目のしょうぶをやりました。
 でも、またまけたのです。
 こんどは、腰までおしこまれました。
 次の三度目もサトニのまけで、耳までうめられました。
 これ以上、もうジッとしてはいられません。
「アンハトホルラー。すぐおしろへかえって、まじないのおふだをもってきて」
 弟は大急ぎでまじないのふだをもってきて、おにいさんのむねにあてました。
「これで、だいじょうぶ」
 サトニはふしぎな力で、スポッと土の中からぬけだしました。
「それ、にげろ!」
 サトニは神さまの本をつかむと、弟と一緒に、お墓からにげだしました。
 するとあたりがまっ暗になり、お妃が、ワッとなきだしました。
「かなしがらなくてもいいよ。本は、いまにきっととりかえしてみせるから」
 王子のネフェルカプ夕ハがいいました。
 さて、お墓のそとにでたサトニは、あなをしっかりうめました。
「よかったね、おにいさん」
「ありがとう、アンハトホルラー。たすけてもらったおかげで、とうとう本をもってこられたよ」
 二人はよろこんでお城へかえると、王さまにすっかりはなしました。
「その本かね。では、すぐお墓へかえしにいってきなさい。かえさないと、あのかしこい王子が、きっととりかえしにやってくるからね」
「いいえ、かえしたりしません。せっかくじぶんのものになったのに。とりかえしにきたら、まけずにたたかいます」
 いく日かたって、サトニは召使いをつれて、神殿へいきました。
 すると美しい少女が、侍女をつれておまいりにきました。
「きれいな姫だなあ。いったいだれだろう?」
 サトニは聞くと、召使いが答えました。
「テブブともうします。お父さんは、オンクトの町にある神殿で、女神をまつっておられるそうです」
「じゃ、あってほしいといってきてくれ」
 しばらくして、召使いは帰ってきていいました。
「どうぞ、うちへおいでくださいといわれました」
 サトニがさっそくでかけると、テブブが笑顔で出むかえます。
「おまちしていました。王子さま」
 とおされたのは、宝石でかざられたへやでした。
「どうか、ぼくのお嫁さんになってください。それをおねがいにきました」
 サトニがいうと、テブブは、またニッコリわらいました。
「はい。わたしも王子さまのお嫁さんにしていただくのは、うれしいですわ」
「よかった。本当にありがとう」
 それからテブブは、金のさかずきにお酒をついで、サトニにのませました。
 よってねむってしまったサトニは、目がさめてハッとしました。
 服がはぎとられて、台所にねています。
「これは、どういうわけだ?」
 おどろいてあたりをみまわしていると、りっぱな男があらわれました。
「サトニ、これは警告(けいこく)だ。はやく本を返さないと、この次はもっとおそろしい目にあうぞ」
 お城へかえったサトニは、このできごとを王さまにはなしました。
「だから、注意をしておいたではないか。あの神さまの本を、かえさないからだよ。さあ、はやく本をかえしてくるのだ。いつまでも持っていると、いまに殺されるかもしれない。さあ、すぐいきなさい」
「はい。おしいけれど、かえしてきます」
 あきらめたサトニは、神さまの本を持って、お墓におりていきました。
 するとまっ暗だったあたりが、パッとあかるくなりました。
「おや、サトニがきましたよ。神さまが、つれてきてくださったのですわ」
 お妃のミイラが、うれしそうにいいました。
「やっぱり、本がかえってきたね」
 ネフェルカプタハも、よろこんでわらいだしました。
「ごめんなさい。どうか、ゆるしてください」
「いや、いいんだよ、サトニ」
 三人はなかなおりをしました。
 それからサトニは、入ってきたあなを、しっかりうめてかえりました。

おしまい

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