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2009年 1月12日の新作昔話

水かけ地蔵

水かけ地蔵
長崎県の民話長崎県情報

 むかしむかし、平戸の町に、天叟公(てんせいこう)という、とても立派な殿さまがいました。
 戦も強くて知恵にもすぐれた人でしたが、あるとき殿さまは、そろそろ国を子どもにゆずって、のんびり暮らしたいと考えて、肥前(ひぜん)の江迎(えむこう)に隠居(いんきょ)したのです。
 そのとき殿さまは、国のみんなが仲良く暮らすようにと、一体の仏像をきざんでお堂にまつったのです。
 さて、それから百年ほどの月日が流れたある日、村の子供たちが、お堂の中に木彫りの地蔵さんを見つけました。
 子どもたちは大喜びで近くの川に地蔵さんをかつぎ出すと、水をかけたり沈めたり、あげくの果てには地蔵さんにまたがったりして、遊び始めたのです。
 そこへ、一人の役人が通りかかりました。
 役人は子どもたちを見て驚き、
「こら! 何をするか、このばちあたりどもが!」
と、大声でどなりつけて、子どもたちを追い払いました。
 そして役人は、さっそく地蔵をお堂にもどすと、子どもたちがいたずらできないように、しっかりとカギをかけたのです。
 ところがその晩から、役人は急に高熱を出して苦しみました。
 医者を呼んで薬を飲ませても、まったく効き目がありません。
 さてその日の夜中、心配した家族が見守っていると、不思議なことに役人は眠ったままで妙なことをしゃべり始めたのです。
「せっかく、子どもたちと遊んでおったのに、お堂に閉じこめるとは何事じゃ! 早く自由の身にしてくれ」
 これを聞いた家族は、びっくりです。
「これは、昼間のあの地蔵さまに違いない」
 そこでさっそく、お堂のカギを開けたのです。
 すると役人の熱は、うそのように下がりました。
 それ以来、この地蔵さまは寿福寺という寺に安置されました。
 そして無病息災(むびょうそくさい)を祈って、毎年八月に千灯籠祭り(せんとうろうまつり)が行われるようになったのです。
 そのとき、青ふんどしにはっぴ姿の子どもたちが、
「わっしょい。わっしょい」
と、地蔵さまをかついで、近くの嘉例川(かれいがわ)に入るのです。
 そして四方八方から地蔵さまに水をかけて、地蔵さまと遊ぶのです。
 このあとで地蔵さまは町中をねり歩かれますが、どこの家でも、やってきた子どもたちに力水を浴びせかけ、このとき水を浴びた子供は病気をしないと言われています。

おしまい

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