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2009年 3月7日の新作昔話

お姫さまと松の木

お姫さまと松の木
山形県の民話山形県情報

 むかしむかし、奈良に都があった頃のお話しです。
 ある国に、あこや姫という、美しいお姫さまがいました。
 ある、月のきれいな秋の夜の事です。
 お姫さまが一人で琴をひいていると、どこからともなくその琴の音に合わせて、ふえの音が聞こえてきました。
「まあ、美しいふえの音。だれがふいているのかしら?」
 お姫さまが庭を見ると、お月さまの光にてらされて、一人の若者が立っていました。
 若者はお姫さまを見て、にっこり笑いかけると、そのままどこへともなく姿を消しました。
「なんて、すてきな殿方でしょう」
 お姫さまはもう一度、若者に会いたくなり、次の晩も琴をひきました。
 やがてふえの音がながれてきたかと思うと、あの若者がやってきました。
「お姫さまの琴はすばらしい。こんなすてきな琴を今まで聞いたことがありません」
 若者は、はじめて口をききました。
「いいえ、あなたのふえほどすてきな音はありません」
 お姫さまは、はずかしそうに言いました。
 こうして毎晩会っているうちに、二人はすっかり仲良しになりました。
 ところがある晩の事、若者はお姫さまに言いました。
「せっかく、お姫さまと仲よくなれたのに、今日でお別れしなくてはなりません」
「そんなのいやです。わたしも一緒に連れて行ってください」
 お姫さまが、若者を止めようとした時です。
 若者の姿がふっと消え、後には松の木のかげが残っているだけでした。
(あの人はもしかして、松の木の精かもしれない)
 お姫さまは松の木のかげを見ながら、ためいきをつきました。
 ちょうどそのころ、この山にはえている一本の古い松の木を切って、橋にすることになりました。
 ところが木こりたちがこの松の木を切り倒そうとしても、松の木はびくともしません。
 いくら大勢で引っぱっても、やっぱり動きません。
 この事を聞いたお姫さまは、もしかしてその松の木が、あの若者ではないかと思いました。
 駆けつけたお姫さまは、松の木のそばにより、
「たとえ、あなたが切られて橋になっても、あなたの事は一生わすれません」
と、言って、手をふれました。
 すると、どうでしょう。
 今までびくともしなかった松の木は、するすると動き出して自分から橋になりました。
 その後、お姫さまは松の木の切りかぶのそばに小さな家をたてて、亡くなるまでそこをはなれなかったそうです。

おしまい

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