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2008年 12月6日の新作昔話
人形のお嫁さん
青森県の民話 → 青森県情報
むかしむかし、あるところに、一人暮らしの若者がいました。
大変な働き者でしたがひどい貧乏で、お嫁さんをもらうことが出来ません。
ある日の事、若者は長者の屋敷へ仕事に出かけました。
あたたかくなってきたので、庭の木の雪囲いをはずしていたら、そばに小さくてきれいな娘さんが立っていました。
「ああ、これは始めまして」
若者が娘さんにあいさつをしましたが、娘さんはじっと立ったまま、口もきかず、動こうともしません。
「おや?」
不思議に思った若者が娘さんに近づくと、なんと娘さんは人形だったのです。
そこへ長者と奥さんが出てきたので、若者は、
「見事な出来ですね。てっきり、本物の娘さんかと思いましたよ」
と、言いました。
すると長者は悲しそうにため息をつき、人形のことを話してくれました。
実は長者には、この人形とそっくりな娘さんがいました。
年頃になっていよいよお嫁入りすることになりましたが、長者も奥さんも娘さんがかわいくて、お嫁になんかやりたくありません。
でも、そういうわけにもいかないので、有名な人形細工師をよんできて、娘さんにそっくりの人形を作らせて、娘さんのかわりにそばへおくことにしたのです。
ところが娘さんは、お嫁に行ってすぐに、病気で亡くなってしまいました。
長者も奥さんも人形を見ては娘さんのことを思い出し、毎日泣き暮らしていました。
ところが不思議なことに、人形はまるで生きているようにどんどん美しくなっていくのだそうです。
「そうですか」
この話しを聞いた若者は、この人形のことが好きになってしまいました。
でも、ゆずってもらうお金もないし、たとえお金があったとしても、長者が大切な人形をゆずってくれるはずはありません。
そこで若者は頭を下げて、
「お願いです。たったの一日でいいから、この人形を貸してください!」
と、お願いしたのです。
「と、とんでもない。これはわたしたちの宝物だ」
長者は断りましたが、それでも若者は、必死でお願いしました。
「おらは貧乏で、嫁さんをもらうことも出来ません。そこで一度でいいから、この人形のそばでごはんを食べてみたいのです」
「そうは言っても」
「お願いします!」
「しかし」
「お願いします!」
若者があんまり熱心に頼むので、長者はとうとう根負けして、しばらくの間、貸してやることにしました。
「ありがとうございます!」
若者は大喜びで、さっそく人形を家に連れていきました。
若者は家の中に人形をかざると、まるで自分のお嫁さんのように話しかけました。
仕事に出かける時は、ほこりがつかないように頭に白い布きれをかぶせて、
「それじゃ、行ってくるからね」
と、言いました。
仕事からもどってくると、今度は白い布きれをとり、
「ただいま。今、もどってきたよ」
と、言いました。
口のきかない人形でも、若者は美しいお嫁さんをもらったみたいな気持ちになり、毎日が夢のようでした。
ところがある日の事、仕事からもどってくると、家の中がきちんと片付いていて、ごはんまで用意してありました。
「おや? いったいだれが、こんな事をしてくれたんだろう? まさか、人形がしてくれるわけがないし」
若者は不思議に思いながらも、用意されたごはんを食べました。
次の日、若者が仕事からもどってくると、やっぱり家の中が片付いていて、ごはんの用意がしてあります。
「これはおかしいぞ?」
いよいよ不思議に思った若者は、その次の日、仕事に行くふりをして、こっそりと天井裏にのぼって家の中の様子を見張っていました。
すると、どうでしょう。
家の中にかざってある人形がむくむくと動き出したかと思うと、人形は白い布をねじってたすきがけにして、そうじを始めたではありませんか。
「・・・・・・」
若者はびっくりして、声も出ません。
そのうちに人形はかまどに火をつけて、ごはんをたきはじめました。
もくもくとのぼってくる煙に若者は思わずせきこんでしまい、そのひょうしに若者は天井裏から足をすべらせて、人形の上に落ちてしまったのです。
「きゃあー」
びっくりした人形は小さな悲鳴を上げると、足をもつれさせて火のついたかまどの中に飛び込んでしまいました。
「たっ、大変だー!」
若者はあわてて人形を助け出そうとしましたが、人形はあっという間に火だるまになって燃え上がりました。
そして若者の目の前で、人形は燃え尽きて灰になってしまいました。
おしまい
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