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      2009年 5月22日の新作昔話 
        
        
       
運のよい男 
ジャータカ物語 → ジャータカ物語について 
       むかしむかし、あるところに、とてもわがままなお嫁さんがいました。 
         自分のだんなさんをとても嫌っていて、 
        「ああ、こんな嫌な人のところへ、お嫁に来たのが間違いだったわ。特にあのヒゲがきらいよ」 
        と、いつも愚痴(ぐち)を言っていました。 
         ある日の事、だんなさんは王さまの命令で、となりの国まで出かけることになりました。 
        「うふふ。これはいいチャンスだわ」 
         ニヤリと笑ったお嫁さんは、何と毒を木の実の粉に混ぜて、水でこねて五百粒の薬をつくると、それをだんなさんに渡して言ったのです。 
        「あなた、今度の旅は、大変長い旅ですから、どうぞ、お体には気をつけてくださいね。それで、この薬を持っていってください。これは、疲れた時に飲むと元気が出る薬です」 
        「そうか、それはありがとう」 
         だんなさんは、それが自分を殺す為の薬とも知らずに、お嫁さんにお礼を言って薬を受けとりました。 
         さて、男が旅に出て山道を歩いているうちに、日が暮れてしまいました。 
        「仕方がない。今夜はここに泊まるとしよう。だが、寝ているうちに、けものに襲われては大変だから、木の上で寝るとするか」 
         男はそう考えて、木に登りました。 
         そのとき、お嫁さんがくれた毒の薬が入った袋を、木の根元に置き忘れてしまいました。 
         その夜、五百人の泥棒が、となりの国から五百頭の馬と宝物を盗み出して引きあげる途中、男が寝ている木の下を通りかかりました。 
        「おや? なんだこれは?」         
         木の根元に何かが入った袋があるのを見つけた泥棒の親分が、袋を開けてみました。 
         すると袋の中には、紙が入っていて、 
        《元気の出る薬》 
        と、書いてあります。 
        「おお、これはちょうどいい」 
         泥棒たちはくたくたに疲れていたので、その薬を一粒ずつ、みんなが飲みました。 
         するとたちまち、五百人の泥棒たちは、バタリ、バタリと、一人残らず死んでしまいました。 
         こうして男は命が助かったばかりでなく、五百頭の馬と宝物を手に入れることが出来たのです。 
        「これは、仏さまがわたしにお恵みくださったにちがいない」 
         そう思った男は、仏さまにお礼を言うと、五百頭の馬に宝物をのせて、となりの国へ向かいました。 
         しばらくすると、男は大勢の人が馬を飛ばしてくるのに出会いました。 
         それは、となりの国の王さまと家来たちで、馬や宝物を盗んだ泥棒たちを捕まえようと、あとを追ってきたところでした。 
         王さまは、五百頭の馬を引き連れた男を見ると、 
        「お前は、何者じゃ?」 
        と、たずねました。 
        「はい、わたくしは、あちらの国の王さまの使いの者でございます。ゆうべ山で、五百人の泥棒と出会い、一人残らず退治して、こうして五百頭の馬と宝物を手に入れました」 
        「なんと。たった一人で、五百人を倒しただと? まさか、そんな事が?」 
         そこでさっそく、王さまは家来に調べさせました。 
         するとたしかに、山の中で五百人の泥棒が死んでいました。 
         それを聞いた王さまは、 
        「お前は、なんと強い男だろう」 
        と、男をほめて、となりの国へ連れて行き、たくさんのほうびをやると、しばらくここにいるようにと命じました。 
         さてそのうち、その国の野原にライオンが出るようになり、多くの人が殺されました。 
         そこで王さまは、男にライオン退治を命じました。 
        「お前ほどの男なら、ライオンの一匹ぐらい、わけもないだろう。どうか退治してくれ」 
         王さまに頼まれた男はびっくりですが、けれども一人で五百人の泥棒を退治したと言った手前、ライオン一匹で断ることは出来ません。 
        「ああ、おれは、ライオンに食い殺されてしまうのか」 
         男はすごすごと、野原へ出かけていきました。 
         野原に着くとさっそく、一匹のライオンが、 
        「ガォーッ!」 
        と、ものすごいうなり声をあげて、襲いかかってきました。 
        「た、助けてくれーっ!」 
         男は夢中で逃げ出すと、やっとのことで、木の上によじ登りました。 
        「ガォーッ!」 
         ライオンは木の下まで来ると、木のみきに前足をかけて立ちあがり、上を見あげながら大きな口を開けました。 
         男が落ちてくるのを、待ちかまえているのです。 
         男は恐ろしさの余り、つい体の力が抜けて、手に持っていた刀をポトリと落としてしまいました。 
        「あっ、しまった。大事な刀が!」 
         しかし運が良い事に、刀は上を向いて大きく口を開けていたライオンの口の中に落ちて、ライオンは、あっけなく死んでしまったのです。 
        「ああ、また助かった。おれは、何て運のいい男だろう」 
       こうして男はまたまた王さまにたくさんのほうびをもらうと、自分の国に帰る事なく、この国で幸せに暮らしたのでした。 
      おしまい 
         
          
         
        
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