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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > そこなしひしやくのこのこのざえもん
2012年 6月1日の新作昔話
そこなしひしやくのこのこのざえもん
一休さんのとんち話 → 一休さんとは
むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
その一休さんがお使いに出かけていない間に、ある家から言付けを頼まれた村人がやって来ました。
「今日は、そこなしひしゃくのこのこのざえもんさん家の法事ですので、お昼過ぎにお経をあげに来てください」
「はい、わかりました。では、お昼過ぎにうかがいましょう」
和尚さんは簡単に引き受けましたが、村人が帰った後で頭をひねりました。
「はて?
引き受けたはいいが、どこへ行けばいいのだ?
『そこなしひしゃくのこのこのざえもんさん』なんて、この寺の檀家(だんか)にはいないはず。
さては、何かの謎かけかな?
うーん、困った事になったわ」
やがて、お使いを終えた一休さんが帰ってきました。
「ただいま、戻りました」
「おお、一休。ちょうどよいところへ、帰って来たな」
「はい、何でしょうか?」
ニコニコ顔の一休さんを見て、和尚さんはふと思いました。
(一休に聞けば、この程度の謎かけ、すぐに解いてくれるだろう。だが、いつも一休に頼るのは、しゃくだな)
「あの、和尚さん。どうしました?」
「いや、何でもない。お使い、ご苦労」
和尚さんは一休さんに頼らず、一人で考える事にしました。
「うーん。
あそこはこの前、法事をすませたばかりだし、あそこでもない。
そうなると、あそこか?
いや、あそこかもしれんぞ。
・・・ああ、もうこんな時間か」
もうすぐ、約束の時間です。
「ええい。いくら考えても、わからんわい!」
法事に遅れては大変なので、和尚さんは仕方なく一休さんに尋ねました。
「これ、一休よ。
実はその、今日は法事の約束があってな。
『そこなしひしゃくのこのこのざえもん』の家なのだが、どこだかわかるか?」
すると一休さんは、にっこり笑って答えました。
「ええ、わかりますとも。では、ご案内します」
和尚さんが一休さんについて行くと、そこは檀家の『柄皮(えかわ)孫ざえもん』の家だったのです。
「一休よ。
法事があるのは、『そこなしひしゃくのこのこのざえもん』の家だぞ。
ここでは、あるまい」
「いいえ、こちらですよ」
「どうしてじゃ?」
「はい。
そこなしひしゃくとは、柄と皮しかないひしゃくの事。
子どもの子どもは孫(まご)ですから、このこのざえもんは、孫ざえもん。
つまり、柄川孫ざえもんさんの事です」
それを聞いて、和尚さんはポンと手を叩きました。
「なるほど! お前はあいかわらず、かしこいのう」
和尚はまたまた、一休さんにはかないませんでした。
おしまい
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