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11月6日の世界の昔話

白鳥の王子

白鳥の王子
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細

 むかしむかし、十一人の王子と、ひとりのお姫さまを残して、やさしいおきさきが亡くなりました。
 王さまはすぐ、新しいおきさきをむかえましたが、そのおきさきは、いじわるなおそろしい魔女(まじょ)だったのです。
 魔女は一年の約束で、じゃまなお姫さまを遠いいなかへあずけてしまうと、ある晩、のろいをかけて王子たちを白鳥に変え、お城のまどから追い出してしまいました。
 一年たってお城へ帰ってきたお姫さまは、兄さんたちがいないので、回りの人に聞いてみましたが、だれも教えてくれません。
 お姫さまは兄さんたちの銀のくつを持って、兄さんたちをさがしに、広い世界へ出ていきました。
 お姫さまは、何日も何日もあるいて、森の中で糸をつむいでいるおばあさんに会いました。
「十一人の若者が、ここを通りませんでしたか?」
と、聞くと、おばあさんはいいました。
「いいや。・・・でも、十一羽の白鳥なら、そこの川をくだっていったがね」
「兄さんたちかもしれないわ!」
 お姫さまは川へ出て、川下へ歩いていきました。
 すると、そまつな小屋があり、中をのぞいてみると、ベッドが十一台、木ぐつが十一足、ならんでいました。
 お姫さまは、持ってきた兄さんたちの銀のくつをそこに置いて、小屋のかげにかくれていました。
 タ方になって、十一羽の白烏が帰ってきました。
 白鳥は小屋へはいると、つぎつぎに王子になって、
「あっ! ぼくたちのくつがある! 妹がたずねてきたんだ」
と、大騒ぎで、あたりをさがし回りました。
 そして、お姫さまを見つけると、泣きながらみんなで抱きあいました。
 でも夜が明けると、王子たちはまた、白鳥になって飛んでいかねばなりません。
「どうしたら、魔法がとけるの?」
 すると、兄さんの一人がいいました。
「ふしぎな夢を見たよ。おまえがイラクサ(→イラクサ科の多年草で、トゲがたくさんあります)をつみ、足でふんで糸を取り、布におりあげて十一枚のシャツをぬうんだ。そのとき魔法がとけるんだが、でもそのあいだは、ひとことも口をきいてはいけないんだよ」
「かわったわ。きっと、お兄さんたちの魔法をとくわ」
 それからお姫さまは、まいにち、まいにち、野へ出てイラクサをつみました。
 イラクサのトゲで白い指から血が流れ、足は傷ついてヒリヒリと痛みましたが、言われたとおり、泣き声も立てませんでした。
 ある日、若い王さまが、その傷だらけのお姫さまを見て、自分のウマに乗せてお城へ連れていきました。
「どうか、わたしのきさきになってください」
 王さまは、お姫さまとりっぱな結婚式をあげました。
 ところが戦争が起こって、王さまは戦場へ出かけてしまい、その留守に、お姫さまは双子の王子をうみました。
 さあ、このことを知った魔女のおきさきは、はるばるやってきて、お城の家来をつかまえると、
「いいかい、双子の王子を連れ出して、殺してしまえ」
と、いいつけました。
 そして、からになったゆりかごに、子イヌを二匹入れておき、
「おきさきが、イヌの子をうんだ!」
と、国じゅうにいいふらしました。
 悲しみをこらえて、お姫さまは兄さんたちを助けるために、せっせとイラクサの糸で布をおりました。
 やがて戦争が終わって、王さまがお城へ帰ってきました。
 王さまは、ゆりかごにいる子イヌを見ると、
「口もきかず、みょうだと思っていたが、これでわかった。おまえは、魔女であろう!」
と、お姫さまに死刑をいい渡しました。
(わたしは魔女ではありません。この十一枚目のシャツにそでをつけてしまえば、お話しできるのです)
 お姫さまは心の中でさけびながら、ろうやの中でも、せっせとシャツを作り続けました。
 そうして、いよいよ、処刑場へ連れて行かれる事になりましたが、お姫さまは連れていかれる馬車(ばしゃ)の上でも、シャツを作り続けました。
 馬車が処刑場へさしかかったとき、とつぜん、空からバタバタと羽音がして、11羽の白鳥が追いついてきました。
 お姫さまは、かかえていたシャツを白鳥に投げかけました。
 すると、白烏はみるみるうちに、十一人の王子になったのです。
「王さま、今こそ、全てをお話しいたします! わたしのお兄さんに魔法をかけたのも、わたしたちの赤ちゃんをイヌと取り替えたのも、魔女のしわざです!」
 お姫さまは、今までのことを残らず王さまにお話ししました。
 そしてそこへ、
「ご安心ください。王子さまはご無事です」
と、いって、家来が双子の王子を連れてきました。
 すっかり準備のできた処刑場で、死刑にされたのは、あの悪者の魔女でした。

おしまい

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