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百物語 第6話

ろくろっ首

ろくろっ首
静岡県の民話静岡県情報

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スタヂオせんむ

 むかしむかし、旅から旅を続ける一人の男がいました。
 ある日の事、日が暮れてきたので、男は浜松(はままつ→静岡県南西部)の近くにある村の宿屋に泊まる事にしました。
 その夜はあいにく、泊まり客がたくさんいました。
 そこで男は美しい女の旅人と一緒に、一つの部屋のまん中にびょうぶを立てて、一夜を過ごす事になりました。
 夏の夜だったので、いつまでたっても蒸し暑く、ねむたくてもなかなかねむれません。
 男は夜ふけになって、やっと、うとうとしはじめました。
 びょうぶの向こうでねている女の人も、やはりねむれないのでしょうか。
 いつまでもモゾモゾしていましたが、そのうちに急に起き上がる気配がしました。
(はて。便所にでもいくのかな?)
 男はそう思いましたが、けれども、隣はすぐに静かになりました。
 ところがしばらくすると、びょうぶの向こう側から、生温かい風が吹いてきました。
 そして女の人の白い顔がびょうぶの上にのびあがって、フワフワと部屋の中を動き始めたのです。
 男はビックリして、ゴクリと息を飲み込みました。
(さては、隣の女はろくろっ首だな)
 男はねたふりをしながら、暗い部屋の中を動き回る女の白い首を見ていました。
 女の首は男の足元の方へ行ったかと思うと、びょうぶの上を伝わって、天井の方へも登っていきます。
 細くなった白い首が、クネクネと伸びていきます。
 男はろくろっ首が少しでも悪さをしたら、飛びかかっていって長い首を引きちぎってやろうと思いましたが、けれどもろくろっ首は何も悪さをしません。
 ただフワフワと、楽しそうに部屋の中を動き回っているだけでした。
 だけどそのうちに、女の白い首は半分開いた雨戸(あまど)の間から、するりと外へ抜け出していきました。
(はて。どこへ行くのだろう?)
 どうせねむれないので、男は頭をあげると、ろくろっ首が伸びて行くあとを追って、雨戸の間から外へ出て行きました。
 美しいろくろっ首は宿屋の前の通りを横切って、お地蔵(じぞう)さんのたっている林の中へ入って行きました。
 そして林の奥にある池のほとりまでフワフワ伸びて行くと、ヘビの様に長い舌を出して、池の水をペロペロとなめ始めたのです。
(なんだ、水を探していたのか。のどがかわいていたので、こんなところへ水を飲みに来たのだな。そう言えば、おれものどがかわいたな)
 そっとあとをつけてきた男は、木のかげに隠れてゴクリとのどをならしました。
 その時、水を飲んでいたろくろっ首が男の方を向いて、ニヤリと笑ったのです。
(しまった。見つかったかもしれん)
 男は急いで宿屋へ戻り、また雨戸の間から部屋の中に入ると、なにくわぬ顔をしてねむってしまいました。

 さて、次の日の朝の事です。
 男より早く目を覚ました女が、びょうぶのかげから男に声をかけてきました。
「昨日の晩は、ずいぶん蒸し暑かったですねえ。よくねむれましたか?」
「まったく。本当に蒸し暑かったですなあ」
 男はそう答えながらふとんを片付けて、びょうぶを取り除きました。
 女の人はカガミに向かって、髪の毛をととのえていました。
「暑かったけれど、昨日は疲れていたのか、わたしはぐっすりとねむって、夢一つ見ませんでした」
 男はわざと、とぼけた事を言いました。
「あら、そうでしょうか? あなたさまは不思議な事をなさいましたが」
 女の人は口元に手を当てて、笑いをおさえながら言いました。
「はて。わたしが不思議な事を? それは、どう言う事ですか? 不思議な事をしたのは、むしろあなたではないですか」
 男が少し怖い顔で言い返すと、
「あら、わたしが不思議な事? わたしが一体、何をしました?」
と、言うのです。
「それなら、言ってやりましょう。あなたは美しい顔をしているが、実はろくろっ首で、この部屋の雨戸から抜け出して、向かいの林の中にある池へ水を飲みにいったではないですか!」
 すると女の人が、ケラケラと笑いながら言いました。
「あなたさまは、ご自分の事に気づいてないのですか?」
「何をです!」
「この部屋は、二階ですよ」
「・・・あっ!」
「ようやく気がついたのですね。あなたさまが首をどんどんと長く伸ばして、ずっとわたしの後をつけて来た事を。夜中にこっそり女の後をつけるなんて、あまり良いご趣味とは言えませんね」
「・・・・・・」
 男はこの時はじめて、自分もろくろっ首である事に気づきました。
 女のろくろっ首はニコニコ笑いながら、男のろくろっ首に言いました。
「ここでこうして出会ったのも何かの縁。どうです。似た者同士、これから旅を続けませんか?」
「・・・いえ、せっかくの申し出ですが」
 男は急いで旅の支度をすると、どこへともなく去って行ったという事です。

おしまい

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