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        福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語) 
         
        百物語 第148話 
          
          
         
百目(→詳細) 
      
       むかしむかし、春の日ざしがだいぶかたむきかかったころ。 
 ひとりの商人が、荷物をせおって山道をいそいでいました。 
 あたりはシーンとして、商人の足音だけが山の中にひびきわたります。 
 商人はビクビクしながら、ほそい山道を進んでいきました。 
 ふと前をみると、だれか先をいくものがいます。 
 商人はホッとして。 
「やれやれ、これでやっと道づれができたわい」 
 いそいで追いつくと、声をかけました。 
「なんとも、おみ足のおはやいことで」 
「へえ」 
 なんと、ふりむいた男は盲目(もうもく→目の見えない人)でした。 
 両目とも、かたくふさがっています。 
 商人は、ふと思いました。 
(めくらなのに、つえも持たんで、なんであんなにはやく歩けるんじゃろう) 
 商人は盲目のあとを歩きながら、話しかけました。 
「あんたさんは、目が不自由のようですのに、よくまあ、はように歩けますなあ」 
 話しあいてができたうれしさに、商人はきかれもしないのに、どんどんしゃべりました。 
 村のまつりで反物(たんもの→衣服)を売ってもうけたこと、まつりの山車(だし→まつりなどで引く、飾りのついた車)のみごとだったこと、娘たちの着物や帯のはやりのこと、なんのかんのと、しゃべりつづけました。 
 盲目は、ただ、 
「ふんふん、ふんふん」 
と、うなずくばかりです。 
 山道が、ひどい石ころ道になりました。 
 盲目は、じょうずに石をよけながら歩いていき、商人のほうは、ついていくのがやっとです。 
と、盲目が、ピタリと立ちどまりました。 
(やれやれ、小便でもする気かな) 
 商人が、一息つこうとすると、 
「ほう、こんなところにも、春がかくれておりますわい」 
 みょうなことをいって、盲目は身をかがめました。 
 商人がのぞきこむと、草のかげに、チラリとスミレの花がのぞいています。 
 商人はおどろきました。 
(こやつ、めくらのくせに。しかもこの日ぐれがたに、よくもこんな小さな花を) 
 なんだか、ゾッとしてきました。 
が、あわてて、つくり笑いをしながらいいました。 
「おまえさんはめくらなのに、このわしよりよっぽど、よう見えるようですなあ」 
 すると盲目は、 
「なあに、めくらというものは、なんでも見えるもんですよ」 
 そういって、またどんどん歩きだしました。 
 商人もしかたなく、あとからどんどんついていきます。 
 日がおちると、山の中はきゅうに暗くなりました。 
 商人がちょうちん(→詳細)をともすと、盲目がいいました。 
「すまんことですが、あかりをちょっと、かしてもらえんでしょうか。わらじ(→詳細)のひもをむすびなおしたいんで」 
「・・・? ・・・さあさあ、どうぞ」 
(目が見えないのに、あかりとは?) 
と、思いましたが、商人は足もとにちょうちんをさしだしてやりました。 
 盲目が着物のすそをまくりあげたとたん、商人は、 
「ウヒャーー!」 
と、さけんで、こしをぬかしてしまいました。 
 なんと、盲目のひざから足もとにかけて、ギラギラと光る目玉が、百もついていたそうです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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