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百物語 第155話

クモ女

クモ女

 むかしむかし、とても気の強いお坊さんがいました。
 そのお坊さんは、チンカンチンカンと鐘を叩きながら、村から村へ旅をして歩くお坊さんです。
 ある日の夕方、お坊さんが山をおりて小さな村里に入ったとたん、雨が振ってきました。
 お坊さんは、かまわず濡れて歩いていましたが、そろそろ日もくれようというのに、雨は全然止みません。
 そこでお坊さんは、近くのお百姓(ひゃくしょう)の家の戸口に立って頭を下げると、
「この雨で、難儀しております。どうか一晩、泊めてださるまいか」
と、言いました。
 すると、その家のおかみさんは、気の毒そうに言いました。
「泊めてあげたいのはやまやまですが、あいにく今夜は客があって。でもこの先に、和尚(おしょう)さんのいない古寺があります」
 それを聞いた旅のお坊さんは、再び雨の中を歩き出しました。
「あ、ちょっと待って下さい」
 おかみさんはお坊さんを引き止めると、にぎった焼きめしを一つ差し出しました。

 それからお坊さんは、ずいぶん濡れて、その古寺にたどり着きました。
 草がおいしげった境内を通り、寺に入ったお坊さんはビックリです。
 中は一面クモの巣だらけで、とてもかび臭い、ひどい荒れ寺だったのです。
「まあ、雨がしのげるだけましか。さて、日の暮れぬうちに、まずはたきぎを」
 お坊さんは、たきぎを見つけると、いろりで燃やしました。
 お坊さんは、濡れた衣を脱いで、いろりの火にかざして乾かすと、
「おお、そうじゃ。焼きめしじゃ」
と、おかみさんにもらった焼きめしを取り出して、美味しそうに頬張りました。
 そして、お坊さんはそのままゴロリと横になると、グーグーと寝てしまいました。
 それから、どれくらいたった頃でしょう。
 突然、ガタン! と、大きな音がして、お坊さんは目を覚ましました。
「何事だ! ひどい音がしたようだが」
 お坊さんは、しばらくジッと耳をすましましたが、何も聞こえてきません。
「気のせいか?」
 お坊さんは、火の消えかけたいろりに気づいて、たきぎを一本取り上げました。
 その時、
 キシッ、キシッ、キシッ、キシッ。
と、本堂の方から、板の間を踏んで近づいてくる音がして、破れたしょうじが、すーと開きました。
「何者!」
 お坊さんは、たきぎを持ちかえると、片膝を立てて身構えます。
 するとそこに現れたのは、灰色の着物にほっそりと身をつつみ、胸に赤ん坊を抱いた女の人でした。
(こんなひどい荒れ寺に、女が住んでおったとは)
 さすがのお坊さんも、目を見張りました。
 女は、いろりの灯りをさけるようにうつむいたまま、素足でお坊さんのそばにきて、ペタリと座りました。
 そして、力のない声で言いました。
「どうか、訳は聞かずに、この子を一晩預かってもらえませんか? お願いです」
 お坊さんは、よほど深い訳があるのだろうと、その赤ん坊を預かる事にしました。
「ありがとうございます」
 女は礼を言うと、赤ん坊をその場に置いて立ち上がりました。
 女は部屋を出てしょうじを閉めると、再びキシッ、キシッと、いう音と共に遠ざかっていきます。
 すると、どうでしょう。
 今まで上を向いて手足をバタバタさせていた赤ん坊が、ゴロンと寝返りをうち、お坊さんの周りをハイハイしたのです。
 そして何度も何度も、お坊さんの周りをグルグルと回り続けました。
「妙な赤子(あかご)じゃ」
 同じ所をグルグルとはい回る赤ん坊を見ているうちに、お坊さんはふと、首を締め付けられている様な気がしてきました。
 その力が少しずつ強くなっていくようで、不思議に思ったお坊さんが首に手をやろうとしたとたん、
 ギリギリギリ!
と、ひどい力で首を締め付けられたのです。
 お坊さんが苦しさの余り首をかきむしりながら赤ん坊を見てみると、赤ん坊ははい回るのを止めて、じっとこちらをうかがっているではありませんか。
「さては、化け物・・・」
 お坊さんは叫ぼうとしましたが、声が出ません。
 すると次の瞬間、
 バリッ!
と、音たてて、天井の板の一枚はずれました。
 すると赤ん坊は、何か見えない糸につかまるように、スルスルと天井に開いた穴に向かって登り始めたのです。
「うっ、逃がすかっ」
 お坊さんは苦し紛れに、そばにあったたきぎを掴むと、渾身の力を込めて天井の穴に投げつけました。
 すると、
「ギャーッ!!」
と、ものすごい叫び声があがって、天井裏で何かがバタバタと暴れました。
 お坊さんは、もう一度たきぎを天井裏に投げようとしましたが、ついに力尽きて、その場に倒れてしまいました。

 さて朝になって、昨日のお百姓のおかみさんが、だんなと一緒に古寺へやって来ました。
「あのお坊さま、無事にいるだろうか?」
「ああ、客も帰ったことだし、今夜は家に泊まってもらおう」
 そして夫婦が古寺に上がり込むと、なんとお坊さんが、いろりのふちに気を失って倒れているのです。
「坊さま、坊さま」
 夫婦に揺り起こされて、やがて気がついたお坊さんは、二人に昨日の出来事を話して聞かせました。
 そしてだんなとお坊さんは、恐る恐る天井裏をのぞいてみてびっくりです。
 何と天井裏一面に、人の骨が散らばっており、その片隅の骨の山の上では、おそろしく大きなクモの親子らしい物が、死んでいたのです。
「そうか、昨日の親子の正体は、化けグモであったか」
 その後、お坊さんは村人に頼まれてその古寺の住職(じゅうしょく)となり、天井裏の骨を手あつくほうむりました。
 そして、二匹の親子グモの死がいも、
「子を思う気持ちは、人間もクモも同じ事。親子とも、成仏せいよ」
と、深々と土に埋めてやったそうです。

おしまい

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