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百物語 第185話

幽霊のたのみ

幽霊のたのみ
大阪府の民話大阪府情報

 むかしむかし、大阪の上本町(うえほんまち)に、夜になると若い女のゆうれいが現れて、道行く人々を追いかけてくるという、うわさがたちました。
 ですから、町の人たちは日がくれると早やばやと戸じまりをすませて、家から外へ出ないようにしていました。
 ある夜ふけの事です。
 用事で出かけていた十作(じゅっさく)という男が、五平(ごへい)というお供の者をつれてかえってくると、
「お待ちください、お待ちください」
と、後ろからよびとめる者がありました。
 若い女の声ですが、十作がふり向いてみても、だれの姿も見えません。
「はて。おかしいな? だれもおらぬぞ。お前にはきこえなかったか?」
 十作が後ろにいる五平にたずねると、五平はブルブルとふるえながら、
「はい、きこえました。たしかにきこえました。うらめしそうな女の声です。町の者たちがうわさをしている幽霊(ゆうれい)かもしれません」
「うむ。声はすれども、姿は見えぬか。わしのような無骨(ぶこつ→れいぎをしらないもの)な者には、幽霊も姿を見せぬのだろう」
 十作はそんな冗談をいいながら、夜道を歩き出しましたが、
「お待ちください、お待ちください」
 また、よぶ声がきこえたのです。
 ふりかえると、道のまん中に、年のころは二十歳ばかりの女の人がたっていました。
 顔は青ざめて髪をみだし、腰から下は暗くてよく見えません。
 十作はあまりおどろきませんでしたが、五平は、
「わっー!」
と、声をあげて、十作の後ろにかくれました。
「おぬし、何の用があってよびとめるのじゃ。動くな! それより近くによれば、きりすてるぞ!」
 十作は、腰のに手をかけながらいいました。
「お待ちください。わたしはこの近くの者です。あるお店のだんなさまと好きあうようになりましたが、その方の奥方(おくがた→奥さん)にうらまれて殺されたのです。夜ごとこのあたりを歩いては、人をよぶのですが、みな、わたしの姿におどろいて逃げてしまいます。でも、あなたさまは足をとめてくださり、うれしゅうございます。どうか、わたしの力になってください」
 若い女のゆうれいは、青白いなみだを流しながら言いました。
「話はわかったが、力になってくれとはどういうことじゃ? まさかわしに、その奥方に仕返しをしてくれと言うのではなかろうな。そんな事は、わしには何の関係もない事。ごめんこうむる」
「・・・・・・」
「もう、だれもうらまないほうがよい。ここであったのも何かの縁。わしがそなたをねんごろにとむらってやるから、こんなところに出て来るなよ」
 十作がいうと、女のゆうれいはうれしそうに、
「それは、ありがたいことです。けれどもその前に、お頼みしたいことがあるのです。実はわたしのおなかに子がやどっています。わたしは死んでいるのに、おなかの子は元気にそだっているので、だんだん苦しくなってきます。どうかその刀で、わたしのおなかをやぶって子どもを出して、わたしを楽にさせてください」
「なんと・・・」
 さすがの十作も、これにはおどろきました。
 そして、ゆうれいのおなかに目をやりました。
 腰から下は暗くてよくはわかりませんが、そう言われれば、なんとなくおなかのあたりがふくらんでいるようにも思えます。
「しかし、そんな事は頼まれても、わしにはできぬ」
 十作はことわると、そのまま歩きさろうとしました。
 すると若い女のゆうれいは、それこそうらめしそうなほそい声で、
「この事、かなえてくださらなければ、これからはいつまでも、あなたさまをうらみますよ」
と、いうのです。
 たまたま出会った幽霊の身の上をきいてやったばかりに、うらまれて、これからもずっとつきまとわれるなんて、そんなバカげた話しはありません。
 これこそ、さかうらみというものです。
 十作ははらがたちましたが、でも考えてみれば、気の毒な気もします。
「よかろう。その願いかなえてやろう」
 十作は決心をすると、わきざしをぬいて、幽霊のそばへよっていきました。
 そして、半分見えないおなかのあたりにわきざしのきっさきをつきいれて、ぐいと横にひきました。
 空気をきるようで、なんの手ごたえもありません。
 あいては幽霊ですから、血もでません。
(きっている気がせんが、これでよいのか?)
 ところが若い女の幽霊は、ほっとした顔をしながら、
「ああ、ありがとうございました。これですっかり楽になりました」
と、いうと、かき消すようにやみの中へきえていきました。
「うむ、じょうぶつせいよ」
 十作は刀をしまうと、お供の五平をつれて家へと帰っていきました。
 その日以来、十作はこの道を通ることはありませんでしたが、その後このあたりでは、元気のいい赤んぼうのなき声と、その子をあやす若い女の声がきこえてくるという事です。

おしまい

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