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百物語 第262話

房太郎

房太郎
新潟県の民話新潟県情報

おりがみをつくろう ( おりがみくらぶ より)
赤鬼・青鬼の折り紙あかおに・あおおに

 むかしむかし、越後の国(えちごのくに→新潟県)のあるところに、関矢喜右衛門(せきやのきえもん)という豪族の一族が住んでいて、大変に力を持っていました。
 その屋敷は御殿の様に立派で、大勢の人たちが働いています。
 ある日の夕方、どこからともなく、一人の男の子がこの屋敷へたずねてきました。
 上品な顔だちで、身なりもきちんとしています。
 男の子は丁寧に頭を下げると、堂々とした態度で言いました。
「わたくしは、遠くから来た者です。どうか、この屋敷で働かせてください」
 すると屋敷の者が、
「身分の高い子どもが、たずねてきました」
と、いうので、喜右衛門が出てみると、このあたりでは見かけない子どもです。
「お前は、どこからきたのだ? 名前は何という?」
「はい、都の方からきました。名前は房太郎(ふさたろう)といいます」
 まだ、七つぐらいにしか見えませんが、実にしっかりとした態度に喜右衛門は感心してしまいました。
 そこで房太郎の望み通り、この屋敷で働かせることにしました。
 さてこの房太郎、よく働き誰の言うこともよく聞く、とても利口な子どもでした。
 いつの間にか屋敷の人気者になり、だれもが、
「房太郎、房太郎」
と、いって、可愛がるようになりました。
 喜右衛門も房太郎がすっかり気に入って、まるで自分の子どものように可愛がりました。
 こうして、五、六年もすぎたころ、房太郎はたくましい若者になり、頭も力も喜右衛門に負けないほどです。
 喜右衛門はますます房太郎を気に入り、いつしか自分の後を継がせたいと思うようになりました。
 ところが房太郎に、不思議なうわさがありました。
 夜になると、ふっと姿を消してしまうというのです。
 どこへ何をしにいくのか、だれにもわかりません。
 ある晩、一人の男があとをつけてみましたが、いつの間にか姿を見失ってしまいました。
 このうわさが、とうとう喜右衛門の耳にも入りました。
 そこで喜右衛門が、房太郎をよんでたずねました。
「お前は毎晩の様に出かけていくそうだが、いったいどこへ何をしにいくのだ?」
 すると房太郎は、きっぱりした顔でいいました。
「はい。剣術の腕を磨くため、山へ出かけていました。毎夜、木を相手に頑張っています」
「そうか、それは感心!」
 喜右衛門は、ほっと胸をなでおろしました。
「でも、この事は屋敷の人にはだまっていてほしいのです」
「よし、わかった。しかし剣術なら、そのうちにわしが教えてやろう」
 それからは屋敷の者がいくら房太郎のうわさをしていても、喜右衛門は気にしませんでした。
 でもそのうちに、もっと恐ろしいうわさがたつようになりました。
 房太郎が出かけた日の翌朝は、きまって旅の人が殺されて、その死体が食い荒らされているというのです。
 うわさは屋敷の中だけではなく、近くの村にも広まっていき、だれもが房太郎を怖がるようになりました。
 これには喜右衛門もだまっていられず、ある晩、房太郎を呼びつけようとしたら、もう出かけた後だというのです。
 さて、その晩の事。
 伝教大師(でんぎょうだいし)というお坊さんが、喜右衛門の屋敷に近い農家にとまっていました。
 とてもむし暑い夜で、なかなか寝付けずにいると、急に冷たい風がふきこんできました。
(はて? なぜ冷たい風が?)
 不思議に思ったお坊さんがふと目をあけると、まくらもとに刀をぬいた男が立っています。
 男はいきなり刀をふりあげて、お坊さんの胸に突き刺そうとしました。
 しかし武術や剣術の心得があったお坊さんは、その攻撃をさっとかわすと、まくらもとに置いていたつえの刀を引き抜き、男の腕を切り落としました。
「うぎゃーーー!」
 男は悲鳴をあげると、切り落とされた腕と刀を拾って、あわてて逃げていきました。
 悲鳴をききつけて、家の人があかりをもってやってきました。
 みるとあたりに血がとびちっていますが、元気なお坊さんを見てほっとしました。
「お坊さん、お怪我は?」
「大丈夫。これは相手の腕を切り落としたときの血だ。それにしてもあの身のこなしは、とても人間とは思えん」
 お坊さんが言うと、家の人は村に広まっているうわさのことを話しました。
「そうか。よし、わしが正体を見届けてやる」
 夜があけると、お坊さんは家の外に出ました。
 庭に血のあとがあり、それが点々と続いています。
 お坊さんがその血のあとをおって歩いていくと、なんと血のあとは、喜右衛門の屋敷まで続いていました。
 お坊さんは喜右衛門に会って、昨夜のことを話しました。
「まさか、あの房太郎が」
 喜右衛門はすぐに房太郎の部屋へ行きましたが、やっぱり房太郎の姿がありません。
 でも点々とした血のあとが、うら口の方へのびています。
 お坊さんと喜右衛門は、屋敷の若者たちと一緒に血のあとをおいました。
 どんどん山の方へのぼっていくと、大きな岩あなの前に出ました。
 血のあとはそこで、ぷっつりと消えていました。
(さては、この中に逃げ込んだな)
 喜右衛門は、大声でいいました。
「昨夜のことは聞いたぞ! 房太郎、出てこい!」
 すると岩あなから、片腕のない血まみれの房太郎が出てきました。
「やっぱり、お前の仕業か」
 喜右衛門が言ったとたん、房太郎の姿はみるみるオニの姿になりました。
「おれは、この岩あなにすむオニだ。いつかお前を殺して、お前の屋敷と土地をおれの物にしようと思っていたが、こうなってはもうおしまいだ。お前たちを一人残らず食べてやる!」
 オニはいうなり、喜右衛門にとびかかろうとしました。
 そのときです。
「えいっ!」
と、いうさけび声とともに、お坊さんがオニを投げ飛ばしました。
 オニは岩に頭から激突して、そのまま死んでしまいました。
 喜右衛門も屋敷の者も、お坊さんの武術にびっくりです。
「あぶないところを、ありがとうございました」
 喜右衛門が礼を言うと、お坊さんはやさしく頷いて言いました。
「いかにオニといっても、お前さんの屋敷で長年暮らしてきたのだ。冥福を祈ってやるとよいでしょう」
 そこで喜右衛門はオニの死体を屋敷近くの小さな山に埋めて、お墓をたててやりました。
 この墓の後は、今も残っているということです。

おしまい

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