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 7月4日の日本の昔話
 
  
 舞扇
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 ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
 
 投稿者 「眠りのねこカフェ」
 
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 投稿者 「きべだよ。」
  むかしむかし、京の都に有名な踊りの師匠(ししょう→せんせい)がいて、大勢の弟子(でし)をかかえていました。その弟子の中に、けいこ熱心な雪江(ゆきえ)という娘がいて、一本の舞扇(まいおうぎ→日本舞踊に使う扇で。普通の扇より大きく、流儀の紋などをえがいたもの)をとても大切にしていました。
 その舞扇は雪江が父にせがんで名高い絵師(えし→絵描き)に描いてもらった物で、今を盛りと咲いている桜の花が描かれた、それは見事な扇でした。
 
 さて、ある日の事。
 どうした事か、雪江はこの扇をけいこ場に忘れて帰ったのです。
 それに気づいた師匠は、
 「大切な扇を忘れると珍しい。まあ、明日来た時に渡してやろう」
 と、自分の机の上に置いておきました。
 ところが次の日、雪江は珍しくけいこには来ませんでした。
 そして次の日も、また次の日も、雪江はけいこに来ないのです。
 「雪江に、何かあったのだろうか?」
 師匠はふと、雪江の扇を広げて見ました。
 そこには扇面(せんめん→扇を開いた面)いっぱいに、明るく花が咲いています。
 そこへちょうど、友だちの占い師(うらないし)が尋ねてきました。
 「やあ、いらっしゃい。ほら、これをご覧なされ。弟子の忘れ物だが、優雅(ゆうが)な物じゃろう」
 師匠が広げたままの扇を占い師に渡すと、
 「ほほう、これは美しい。・・・?」
 と、占い師はしばらくして、ポツリと言いました。
 「お気の毒ですが、この花は今日中に散りますな」
 「えっ?」
 
 やがて占い師が帰った後、師匠は再びその扇をながめました。
 (今日中に散るとは、いったいどの様な意味だ?)
 占い師の言葉が気になった師匠は、それからもじっと扇をながめていました。
 すると妻がやって来て、
 「あの、お食事でございます」
 と、声をかけました。
 「ああ、もうそんな時間か」
 妻の声に我に返った師匠は、開いたままの扇を持って立ちあがりました。
 するとハラハラと、開いた扇から白い花びらが散りました。
 散った花びらは風もないのにチョウが舞うと、空高く消えてしまいました。
 「何とも、不思議な事よ」
 そして花びらが散った扇を見た師匠は、さらにびっくりです。
 「おお、これは!」
 何とそこにあるのはただの白い舞扇で、あれほど見事に描かれた桜の花がすっかり消えていたのです。
 「これは、もしや雪江の身に!」
 師匠はカゴを用意すると、雪江の家に急がせました。
 そしてカゴが玄関につくと、ちょうど母親が現れて言いました。
 「先生。娘は、娘はほんの先ほど、息をひきとったところでございます。どうぞこちらへ」
 案内された奥の間には、息をひきとった雪江が静かにねむっていました。
 そしてその周りには、どこから入ってきたのかあの桜の花びらがしきつめるように落ちていたという事です。
 おしまい   
 
 
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