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第 20話
美しい竜の娘
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むかしむかし、知多湾(ちたわん→愛知県西部)の海の底に、親子三匹の竜がすんでいました。
天気のいい静かな日の夕方などは、沖へでた漁師(りょうし)の舟が岬(みさき)をまわってくると、白い波がうちよせる岩の上に竜の親子がいるのが見られました。
上半身だけ人間に姿をかえた竜の両親と、長い髪を腰のあたりまでたらした娘が、夕日の中で仲むつまじく語りあっているのです。
ある年の、月の美しい日の事です。
この日は豊石神社(とよいしじんじゃ)のお祭りで、夜になると村や町からたくさんの若者たちが集まってきました。
若い男たちは海に入って身を清めたあと、ふんどし一丁で花火を夜空にうちあげて、お祭りをもりあげるのでした。
長い髪を腰までたらした竜の娘も、お祭りが見たくて姿を人間の娘にかえて神社へやってきました。
そして時のたつのも忘れて、うちあげ花火や祭りばやしをたのしんでいましたが、そのあいだに海の水は、はるか沖合いまでひいてしまったのです。
竜の娘は帰る道がわからなくなってしまい、とほうにくれて砂の上でうつむいたまま泣いていました。
その声をききつけたのか、一人の若い侍(さむらい)がやってきて、やさしい声でたずねました。
「なぜ、こんなところで泣いているのですか?」
竜の娘はだまって顔をふせていましたが、若い侍は心配して、竜の娘をいたわりながら自分の屋敷へつれていったのです。
若い侍はお城の家老(かろう)の息子で、作之進(さくのしん)という青年でした。
竜の娘は人間の姿のまま、何日も屋敷にいました。
そして、やさしいもてなしを受けているうちに、作之進とふかく愛しあうようになりました。
竜の娘は小夜衣(さよぎぬ)とよばれて、屋敷のだれからもやさしくされていました。
けれども心の中では、いつも両親の事が心配でなりません。
月の美しい夜など、小夜衣は海辺にいって波の音に耳をかたむけると、元の竜にもどって両親のいる海の底へ帰ろうか、それともこのまま人間の姿で恋しい作之進と生きようかと、なやみつづけていました。
けれど小夜衣は、作之進と別れることはできないと思いました。
「このままの姿で、いつまでも作之進さまのそばにいたい」
小夜衣は、強くそう思いました。
それから何日かたった、ある朝の事です。
漁師が神社の近くの海辺に、下半身は竜で上半身が髪の長い、美しい女の人の死体が流れついているのを見つけました。
それは、かわりはてた小夜衣の姿だったのです。
おしまい
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