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第 27話
泉小太郎(いずみこたろう)
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むかしむかし、松本平(まつもとだいら)の放光寺(ほうこうじ)という里に、洞(ほら)じいと呼ばれる老人がいました。
ある日のこと、釣りに出かけた洞じいは、湖のほとりで赤ん坊を見つけました。
「おうおう、こんなところになぜ赤ん坊が」
そっと抱き上げると、突然、湖の中から竜が姿を現わして、
「その子の名は、泉小太郎(いずみこたろう)です。私はわけあって竜の姿をしておりますが、小太郎が十二才になったら犀乗沢(さいのりざわ)の淵まで迎えに参ります。どうかそれまで小太郎を育てて下さい」
と、言うと、再び水の中に沈んでしまいました。
それ以来、洞じいは小太郎を大事に育てました。
小太郎はすくすくと成長して、やがて十二の春を迎えたある晩のこと、洞じいは小太郎を呼んで話しを始めました。
小太郎の母が竜であること、犀乗沢で小太郎を待っていること。
小太郎は考えた末、洞じいに別れを告げて犀乗沢へと出かけて行きました。
やがて淵にたどり着いた小太郎は、
「おっかさん、おっかさん」
と、水面に向かって何度も母を呼びました。
すると静かな湖面から、竜が姿をあらわしたのです。
竜は小太郎を見ると、涙をこぼしました。
「小太郎、よく来てくれました。私は諏訪大明神(すわだいみょうじん)の化身、この湖を切り開いて土地を作るためにつかわされたのです。お前を人の世で育てさせたのもそのため、どうか私に力を貸しておくれ」
小太郎は母竜の話を聞き終わると、大きくうなづきながら、
「おっかさん、よくわかった。おら、手伝うよ」
と、承知して、さっそく母竜の背中にまたがりました。
やがて母竜は小太郎を乗せると、ゆっくりと湖の中を泳ぎ回ります。
そして、ひとつの岩に見当をつけると、勢いよく体ごとぶつかっていったのです。
母竜は何度も何度も岩に体当たりして、その度に裂けた傷口から血が吹き出しました。
小太郎は母の背から、
「岩が動いた。もうひと息だ」
と、懸命に母竜をはげまします。
その言葉に力を得たかのように、母竜は最後の力をふりしぼって、
ドーーン!
と、岩に体をぶち当てました。
すると、あたりをゆるがすような音と共に岩が地響きをたてて崩れ落ちて、湖の水が一気に流れ出ました。
こうしてあとには、広い広い土地が現れたのです。
けれども小太郎と母竜はどこへ行ってしまったのか、その姿はどこにもなかったそうです。
大町市仏崎の観音寺には、この小太郎と母竜の霊がまつられているそうです。
おしまい
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