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第 88話

島の合戦

島の合戦
石川県の民話石川県情報

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 むかしむかし、加賀の国(かがのくに→石川県)に、釣りの大好きな七人の男がいました。

 ある日の事です。
 七人は集まるとこんな話をしました。
「良い天気じゃ。こんな日には船に乗って、魚を釣ろうではないか」
「名案じゃ。それに思いきって、うんと遠出をしよう」
「そうだな。それならまさかの時の用意に、弓矢も持って行こう」
 そこで七人の男たちは、弓と矢、それに刀なども船に積み込んで船をこぎ出しました。

「さて、この辺りで始めよう」
 男たちが釣り針にえさをつけようとしていると、突然、嵐の様な大風が吹いてきて船をどんどん沖へ流しました。
「大変だ! はやく船をこぐんだ!」
 七人の男たちは夢中で船をこぎましたが、船は流される一方です。
 それから、どれくらい流されたでしょう。
 気がつくと船は、ある島のすぐそばまで来ていました。
「おい、島だ。島が見えたぞ」
「おお、かなり大きな島だ。これで命も助かったぞ」
 さっそく島にあがってみると、林の中から一人の美しい若者が姿を見せました。
 若者は七人の男たちに、ていねいに頭を下げると、
「ようこそ、おいで下さいました。
 実は訳があって、わたくしがあなた方をこの島へ引き寄せたのです」
と、言いました。
「船を引き寄せるとは、どういう事だ?」
「この若者、ただの人間ではないらしい」
 男たちが若者を怪しんでいると、若者はニッコリ笑って言いました。
「さて、長い船旅で皆さま、お疲れでございましょう。まずはお食事をどうぞ」
 そして若者が林の奥に手招きすると、林の中から大きな長持(ながもち)をかついだ人足(にんそく)たちが現れました。
 長持の中は、酒やおいしい食べ物がたくさん入っています。
 腹ぺこだった男たちは、喜んでそれらを食べました。
 そして食事がすむと、美しい若者が言いました。
「あなた方に、お願いがございます。
 実は沖の方に、もう一つの島がありまして、そこの主が毎年戦いをいどんでまいります。
 そこの主は、この島を奪おうとしているのです。
 明日はちょうど、その主が攻めてくる日。
 それでぜひ、みなさんにお力ぞえをいただきたく、お迎えいたしました」
 自分たちを迎えたとは、おかしな言い方ですが、とにかくこの若者は七人にとっては命の恩人です。
 その恩人の頼みを、断る事は出来ません。
「わかりました。さいわい、弓矢や刀などもあります。たったの七人ではありますが、必ずや、お力になりましょう」
「ありがとうございます」
「して、向こうの島からは、どれほどの軍勢が攻めてくるのですか?」
「いや。敵は人間ではありません。それにこのわたくしたちも、人間ではないのです」
「・・・?」
「まあ、それはいずれおわかりになるでしょう。
 ところで、今までの戦いは、波打ちぎわで戦っておりました。
 けれど今度は、あなた方がいてくださるので、敵を岸の上におびき寄せようと思います。
 奴は岸にあがると力が出るので、喜んであがってくるでしょう。
 奴との対決は、わたくしにお任せください。
 わたくしたちは、力の限り戦います。
 ですが、どうにもこらえきれぬようになりましたら、あなた方に目くばせをいたしますから、あなた方は相手の頭をねらって、お持ちの矢を残らず撃ち放って下さい」
 いい終わると若者は、林の奥の方へ姿を消しました。

 七人の男たちは山の木を切って、大きな岩のかげに小屋をつくりました。
 そして岩の上から、敵が来るのを待ちました。
 やがて波がざわめき始め、生臭い風が吹いて来ると、海の上にギラギラッと燃える二つの火の玉が現れたのです。
 そして二つの火の玉は不気味なうなり声をあげると、荒れ狂う波をかきわけてぐんぐんと島へ近づいてきます。
 よく見ると海から来る敵は、クジラよりも大きな大ムカデです。
 そして山からも、大木の様に大きな大蛇が現れました。
 とても大きな大蛇ですが、ムカデに比べると半分ほどの大きさしかありません。
 やがて陸に上がった大ムカデは、波打ちぎわで、ぶるぶると身ぶるいして体の水をはねのけると、煙の様な息をはき出しました。
 一方の大蛇は、かま首を持ちあげてムカデを威嚇(いかく)します。
 二匹の化け物は、しばらくにらみ合っていましたが、やがて砂煙をあげながら互いに相手に食らいつきました。
 最初は互角の勝負でしたが、やがて体の小さな大蛇がやられる一方になりました。
 その時、大蛇が岩の上の男たちに目配せをしました。
「よし、合図があったぞ。それっ!」
 七人の男は弓を引きしぼって、大ムカデの頭に目がけて矢を放ちました。
 ビューン
 ビューン
 ビューン
 ビューン
 矢は次から次へと、休む間もなく放たれました。
 そして何百という矢が、大ムカデの頭に突き刺さったのです。
 矢がなくなると男たちは岩の上から飛びおりて、刀をふりかざしました。
「それっ! 相手はだいぶ弱ったぞ! 逃げられぬ様に足を切り落としてしまえ!」
 男たちは大ムカデの足を、次から次へと切り落としていきました。
 全ての足を切り落とされた大ムカデは、バランスを崩して仰向けにひっくり返りました。
 すると男たちは大ムカデの腹をめった切りに切りつけて、とうとう大ムカデをやっつけたのです。

 大ムカデが死んだのを見届けると、大蛇は傷ついた体を引きずりながら林の奥に消えていきました。
 やがて林の奥からあの若者が姿を現すと、目に涙を浮かべながら言いました。
「ありがとうございます。あなた方のおかげで、この島の者は平和に暮らす事が出来ます。本当にありがとうございました」
 そして林の奥を手招きをすると大勢の人足たちがやって来て、七人の船の中に食べ物や珍しい酒などをたくさん入れてくれました。
「さあ、どうぞ船にお乗りください。わたくしが、お送りいたしましょう」
 七人の男たちが船に乗り込むと、若者は手を高くあげました。
 すると島から風が吹いてきて、男たちの乗った船はあっという間に加賀の国へ帰りついたという事です。

おしまい

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