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      第 92話 
          
          
         
早業競べ 
熊本県の民話 → 熊本県情報 
       
      ・日本語 ・日本語&中国語 
      
       むかしむかし、ある長者(ちょうじゃ)が、 
        《日本一、仕事の早い者をやとう》 
        と、お触(ふ)れを出しました。 
        すると長者の家に、三人の男たちが集まって来ました。 
        「では、お前たちの腕前を見せてもらおう」 
        長者が言うと、最初の一人が進み出ました。 
        「では、わたしから」  
        最初の一人は、十本の梅の木からいっぺんに梅の実を叩き落とすと、それが地面に落ちる前に全部受け取ってしまったのです。 
        「これは見事、見事じゃ」 
        長者が喜んでいると、次の男が進み出ました。 
        「それくらいの事で、驚いてはいけません。梅の実には雄梅(おうめ)と雌梅(めうめ)があるのに、さっきの男はそれをより分けていませんでしたから」 
        「ほう、梅の実に雄(おす)と雌(めす)があるとは知らなかった。して、お主はどういう早業を見せてくれるのじゃ?」 
        すると、二番目の男は、 
        「ノミを、一升(いっしょう)ばかり集めて下され」 
        と、頼みました。  
        長者は大勢の村人に命令して、一升(いっしょう)ます一杯のノミを集めさせました。 
        するとそれを受け取った二番目の男は、いきなり一升ますをひっくり返しました。 
        さあ、大変です。 
        ノミはいっせいに、ピョンピョンと跳びはねながら逃げていきます。 
        「ご心配なく」 
        二番目の男は近くにいた女の人の長い髪の毛を二本抜くと、跳びはねるノミを片っぱしから捕まえて、髪の毛で一匹一匹をしばりあげたのです。 
        あまりの早業に、長者はビックリです。 
        「こりゃ、たまげたわい」 
        しかも二本の髪の毛に、オスとメスのノミをより分けていると聞いて、さらにビックリです。 
        すると今度は、三人目の男が言いました。 
        「いやいや、それくらいの事で驚いてはいけません。第一さっきの男は、ノミを三匹ほど逃がしてしまいました」 
        「ほう、それならお主は、何を見せてくれるのじゃ?」 
        ちょうどその時、長者の屋敷(やしき)の屋根を修理していた大工が、高い屋根から足を滑らせて下へ落ちてしまったのです。  
        それを見た三人目の男は、さっと裏山に走って行って竹を切ってくると、その竹で大きなカゴを作り、次にウマ小屋に飛び込んでワラたばを取って来て、大きなカゴに敷き詰めると、屋根から落ちて来た男を大きなカゴで見事受け止めたのです。 
        「こいつはたまげた。人が落ちてくる間に、ワラたばを敷き詰めたカゴを作って人を受け止めるとは」 
        三人が三人とも、すご腕の早業だったので、長者は三人を客人(きゃくじん)として大切にもてなしたという事です。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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