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      第 99話 
          
          
         
まぼろし御殿 
東京都の民話→ 東京都情報 
 
      ・日本語 ・日本語&中国語 
      
       むかしむかし、あるところに、八(はち)という男の子がいました。 
 八は、毎日、お母さんが焼いてくれたイモを山で仕事をするお父さんに届けていました。 
 遊びたい時も、疲れたときも、八は、 
「山で一生懸命、おいらたちのために働いてくれる父さんが腹を空かしたら、かわいそうだもんな」 
と、がんばって出かけました。 
 今日も八は、お母さんが焼いたイモ弁当を風呂敷に包んで、それを鼻にひっかけて出かけます。 
 なぜ鼻にひっかけるかと言うと、八の鼻は天狗の鼻みたいに長く、お弁当をひっかけるのにはちょうどいいのです。 
 でも、いいのは山へ弁当を届けるときだけで、あとはいい事など一つもありません。 
 顔を洗うときも、ごはんを食べるときも、長い鼻は邪魔です。 
 おまけに近所の子どもたちに、 
「やーい。天狗っ鼻の八、やーい」 
と、からかわれて、ずい分と、くやしい思いもしました。 
(けど、まあ、仕方ないや) 
 八はそう思って、気にしないように自分に言いきかせてきました。 
 さて、弁当を鼻にひっかけた八が山道に入ったとき、どこからか小ザルが飛び出して来て、八の鼻から弁当をヒョイと取っていきました。 
 そして、 
「あっ、こらっ!」 
と、八がどなったとたん、驚いた小ザルは、なんと弁当を谷底へ投げたのです。 
「ああ」 
 小ザルは、そのままどこかへ逃げて行きました。 
 弁当はゴロゴロと転がっていき、やがて川に落ちて流されてしまいました。 
「大変だ。早く、イモ弁当を取って来なきゃ。父さんが、腹を空かして待っているんだ」 
 八は木の枝や岩につかまりながら、谷へ下りて行きました。 
 弁当は水に浮かんで、どんどん流れて行きます。 
「まてー!」 
 八は、川原を走って追いかけます。 
 走って走って気がつくと、川はいつの間にか海に流れ込んでいました。 
 弁当は海の波にのまれて、もう見えません。 
 がっかりして八が戻ろうとしたとき、岩山の上に見た事もないほど、きれいな御殿がたっていることに気がつきました。 
 八は、御殿の方へ歩いて行きました。 
「ちょっとのぞいてみるだけなら、しかられないよな」 
 御殿のまわりには、花がたくさん咲いています。 
 赤い花、黄色い花、うす紫の花が、きれいに重なり合って咲いています。 
 まるで、花の雲が広がっているようです。 
(ああ、なんてきれいなんだろう。そうだ。一本だけ、母さんの土産にもらっていこう) 
 そして、八が花に手を伸ばしたときです。 
「八や、ようこそ」 
「うひゃ!」 
 八は驚いて、伸ばした手を引っ込めました。 
 でも、まわりを見ても誰もいません。 
「おかしいな?」 
 そして、もう一度手を伸ばすと、 
「八や。御殿(ごてん)へいらっしゃい」 
と、まるで鈴の音色のような声が聞こえてきます。 
 そこで八は、そっと御殿の方へ近づいて行きました。 
 すると宝石をちりばめた扉がスーッと開いて、中から美しいお姫さまが八を迎えてくれました。 
「八、よく来てくれましたね。お前は、いつもお父さんにお弁当を届けるやさしい子です。そのごほうびに小ザルを使って、ここへ来てもらったのです。お父さんには、かわりのお弁当が届いているはずですから、安心して中へお入りなさい」 
 お姫さまは、咲いたばかりの花のように美しい笑顔で八に言いました。 
「うん。じゃあ」 
 八は、御殿の中へ入って行きました。 
 御殿の中は、金色の柱に銀色の天井、まっ赤なじゅうたんが敷きつめられていました。 
 お姫さまが案内してくれたのは、大広間です。 
 そこにはたくさんの家来たちがいて、八を笑顔で迎えてくれます。 
 そして音楽が始まり、大きな食卓に次々とごちそうが運ばれて来ました。 
 八は上等な椅子に座らされると、たちまち美しいおつきの女の人たちに囲まれました。 
 お姫さまは、 
「八や、何でも願い事があったなら、言いつけるように」 
 そう言って、大広間を出て行きました。 
 八は、目の前に運ばれてくるごちそうに、さっそくはしをつけました。 
 でも、長い鼻がじゃまをして、うまく食べられません。 
「ああ、もう。この鼻、いやだなあ」 
 八がぽつんと言うと、おつきの女の人たちが声をそろえて歌うように言いました。 
♪八の鼻、 
♪低くなれ。 
♪ちょうどいい、 
♪高さになれ。 
 すると、八の鼻はするすると短くちぢんで、かっこうの良い鼻になりました。 
「わあ、よかった」 
 八は大喜びで、パクパクごちそうを食べました。 
 おいしいごちそうをお腹いっぱい食べると、お姫さまがおみやげの包みを持って入って来ました。 
「八や、たくさんめしあがりましたか?」 
「はい、もう、いっぱいです!」 
「では、このおみやげを持って、お帰りなさい。目をつむって、一、二の三で目を開けたら、もう家についていますからね。では、これからも、お父さんとお母さんを大切にしてあげてくださいね」 
「うん」 
 八はおみやげを受けとると、目をつむりました。 
 それから、一、二の三で目を開けると、本当に家の前に立っていたのです。 
「ただいまっ!」 
 元気よく戸を開けると、お父さんとお母さんがびっくりして言いました。 
「八、その鼻どうしたんだい?」 
「うん、実はね」 
 八が今日あったことを話すと、お父さんは、 
「そうだったのか。確かに、おいしい弁当がいつの間にか、届けられていたよ。遠慮なく食べさせてもらったけど、そういうわけだったのか」 
「お前がよく働くいい子だから、きっとごほうびをくださったんだよ。よかったね」 
 お母さんも、にこにこ言いました。 
 八は、おみやげにもらった包みを渡して言いました。 
「一緒に開けようよ」 
 お父さんとお母さんが包みを開くと、中には宝物がたくさん入っていました。 
 それから八の家族は、いつまでも仲良く、幸せにくらしました。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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