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      第 109話 
          
          
         
竜宮へ行った海女 
三重県の民話 → 三重県情報 
       
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       むかしむかし、安乗村(あのりむら)の瓦屋(かわらや)のおばあさんが、海女(あま)に行ったまま戻ってきませんでした。 
 村人たちはおばあさんが死んだと思って、葬式(そうしき)を出しました。 
 それからしばらくたったある日、村の若者が魚釣りをしていると海の中から、 
「ホーイ、ホーイ」 
と、声がして来ました。 
 しばらくすると、今度は大きな声で、 
「助けてくれー、助けてくれー」 
と、いう声とともに、海女の磯桶(いそおけ)が浮いてきたのです。 
 その磯桶は、瓦屋のおばあさんの物でした。 
「たっ、大変だ!」 
 村の若者は急いで海へもぐり、海の中にいたおばあさんを助けました。 
 おばあさんは手に、小さな桐(きり)の箱を持っています。 
 やっとの事でおばあさんを家に連れて帰ると、おばあさんはこんな事を言いました。 
「大グラ島から四十間(約70メートル)ほど海の底にもぐったところに、石の鳥居(とりい)があった。 
 それをさらにもぐると、イソコ大神があったのじゃ。 
 お参りをしたら、イソコさんがこの小さな桐の箱をくれたのじゃ。 
 イソコさんは、 
『人前では、決して開けるでないぞ。開けずにおけば家が繁昌(はんじょう)するが、開けると七代のあいだ、盲目(もうもく→目の見えない人)の子が生まれてくる』 
と、言われたのじゃ」 
と、言いました。 
 聞いていた村人たちは桐の箱の中を見たくなり、おばあさんに見せてくれと何度もたのみましたが、おばあさんは決して見せようとはしません。 
 そうしているうちに庄屋(しょうや)さんがこの事を知り、庄屋さんは瓦屋のおばあさんのところにやって来て言いました。 
「海に行ったまま、もう帰って来ないかと思っていたのに、よくぶじで上ってきて喜ばしいことじゃ。 
 なんでもばあさんは小さな桐の箱を持って来たそうじゃが、いったい何が入っているのじゃ?」 
「それがイソコ大神さんに、 
『開けるじゃないぞ、開けたら大変な目に会うぞ』 
と、言われたので」 
「ほう。それは、どんな目に会うのだ?」 
「それが、ちょっと開けただけでも、七代のあいだ盲目の子が生まれるというのだ」 
「なら、みんなの前で開けたらどうじゃ? そうすれば責任はみんなにあるのだから、大丈夫でねえか?」 
「うん、まあ、しかしなあ・・・」 
 庄屋さんと押し問答(もんどう)のすえ、瓦屋のおばあさんはとうとう小さな桐の箱を開ける事になりました。 
 そしておばあさんがふたを開けると、あの小さな桐の箱の中から大きな蚊帳(かや)が出てきて、みるみるうちに八畳の間いっぱいに広がりました。 
 村人たちがおどろいて見とれていると、おばあさんがいません。 
「おい、おい、ばあさんや?」 
 みんながおばあさんを探しまわると、おばあさんはふとんの中へもぐって体を丸くしていたのです。 
「ばあさんよ、あの蚊帳はじゃまだから、なんとか元通りにならんのかなあ」 
「ほれ、だから箱を開けたらあかんと、言ったやないか!」 
「まさかあの小さな桐の箱から、こんなに大きな蚊帳が出てくるとは思わんかったから」 
「まあ、確かに。しかし庄屋さん、これをどうしたらいいのかのう?」 
「うーん・・・」 
 庄屋さんは腕を組んで、考え込んでいます。 
 村人たちも、困った顔をしていました。 
 そこでおばあさんは、 
「海の底のイソコ大神に行くのはもうごめんだから、陸の磯部(いそべ)さんに行ってお頼みしてこよう」 
と、言いました。 
 それにはみんなも賛成したので、おばあさんは磯部さんへ行くことになりました。 
 すると、磯部さんが、 
「桐の小箱と、蚊帳を持って来い」 
と、いうので、さっそく持って行くと、 
「海の底のイソコさんの言われることを聞かないから、こんな事になったのじゃ。今回は何とかするが、よく反省せいよ」 
と、磯部さんはおばあさんをしかりつけたのです。 
 それから後、瓦屋では家訓(かくん→家の決まり)として、 
《約束は、絶対に守ること》」 
と、言い伝え、家業(かぎょう)にはげんだので、商売は大はんじょうしたという事です。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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