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第 290話
恋路
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むかしむかし、能登の国(のとのくに→石川県)の能登半島のある村に、鍋乃(なべの)という美しい娘がいました。
鍋乃は美しいだけでなく、とても優しくて気立てが良いので村の若者たちのあこがれの的でした。
ある日の事、鍋乃は海の岩場でサザエを取っている途中、うっかり足を滑らせて海へと落ちてしまったのです。
「だれか―! だれか助けてくださいー!」
すると近くで釣りをしていた隣村の助三郎がその声を聞きつけて、海に飛び込んで鍋乃を助けてくれました。
「娘さん、大丈夫ですか!」
「はい。お陰さまで助かりました。ありがとうございます」
それが縁で二人は恋に落ち、人目を忍んで逢うようになったのです。
助三郎の村と鍋乃の村は岬をはさんで向こう側とこちら側にあり、村と村をつなぐ道は山を越える遠回りしかありません。
そこで助三郎は岬の岩の多い場所を伝って、毎夜、鍋乃の村へやってきたのです。
そして浜辺では鍋乃が目印のかがり火をたいて、助三郎が来るのをいつも待っていました。
さて、鍋乃の村には源次(げんじ)という、鍋乃の事を想う若者がいました。
源次は鍋乃が隣村の助三郎と逢っているという噂を聞いて、とても悔しがりました。
「ちくしょう。何でよりによって、違う村の助三郎が!」
そしてある夜、源次はこんな事を考えたのです。
(助三郎さえ、いなければ)
その夜、助三郎は鍋乃に会うために、いつものように暗い岩場を歩いていました。
するとその時、遠くでパッとかがり火が灯りました。
「あっ、鍋乃のかがり火だ」
助三郎は、かがり火を目指して岩場を急ぎました。
「あと少しで鍋乃に会える。そして今日こそは、鍋乃に妻になってくれと言うんだ」
その時、ふいにかがり火が消えました。
「鍋乃! かがり火をつけてくれ!」
「・・・・・・」
助三郎は叫びましたが、返事がありません。
実は、そのかがり火は源次が切り立った岩場の上で焚いたものだったのです。
知らぬ間に危険な岩場に誘い込まれていた助三郎は、ふいの波に足をすくわれて、そのまま海の底へと沈んでしまいました。
そんな事とは知らない鍋乃は浜でかがり火を焚きながら、一晩中、助三郎が来るのを待っていました。
そして夜が開け始めた頃、待ち続ける鍋乃の近くの浜に死んだ助三郎の亡骸(なきがら)が打ち上げられたのです。
「・・・助、助三郎さん?」
鍋乃はあまりの出来事に、そのまま泣き崩れてしまいました。
そして鍋乃は助三郎の亡骸をしっかりと抱きしめると、そのまま海へと入っていき、二度と帰っては来ませんでした。
村人たちは若い二人の死を哀れんで、二人の恋の道であったこの浜を『恋路』と呼ぶようになりました。
今でも石川県珠洲郡(すずぐん)の恋路海岸(こいじかいがん)には、二人記念碑が建っているそうです。
おしまい
→ 恋路海岸 恋路海岸の観光スポット:るるぶ.com
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