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5月11日の日本の昔話
  
  
  
  海ぼうず
 むかしむかし、あるところに、荷物船でにぎわう港がありました。
   あるときのこと。
   夏だというのに、今にも雪がふりだしそうな、はだ寒い天気です。
   船頭たちが集まって、
  「どうしたわけだ。寒うてかなわん」
  「おかしな日よりじゃ。こんな日は、船をださんほうがええ」
  「ああ、なにがおこるか、わからんからな」
  と、はなしあっておりました。
   すると、ひとりの船頭が、
  「なあに、一日休めばそれだけだちんがへるわ。ゆうれい船でも海ぼうずでも、でてきよったら、とっつかまえてやるわい」
  と、人がとめるのもきかずに、ひとりで荷物船をあやつって、港をでていきました。
   ところが、おきへでていくらもしないうちに、
  「おうい、おうい」
  と、だれかが、よぶ声がきこえてきたのです。
  「はて、こんな海のなかで、なんじゃろ」
   ろを休めてあたりをみわたしましたが、なにもみえません。
  「ふん、そら耳か」
   船頭はまた、ろをこぎはじめました。
   そんなことが、二ど、三どとつづきましたが、船頭はたいして気にとめず、船をすすめていると、こんどはすぐ後ろから、
  「おうい、おうい」
  と、きこえたのです。
   おもわずふりかえってみると、生白いものが、大きくなったり小さくなったりしながら、船のうしろにとりついていました。
  「これは、海ぼうずだ!」
   船頭は、あわててひしゃくを手にすると、
  「こうしてくれるわ!」
  と、ひしゃくの頭で、海ぼうずをなぐりつけました。
   とたんに海ぼうずは、海のなかへもぐってしまいました。
  と、おもうまに、ふたつになって顔をだしたのです。
   ビックリしてまたなぐると、こんどは四つになりました。
  「な、なんてやつらだ」
   船頭がなぐればなぐるほど、海ぼうずは数をばいにしていきます。
   そうして、うすきみ悪いわらい声をだしながら、きゅうに小山のように大きくなったり、みるみるしぼんだりしながら、船のまわりにとりついてきます。
  「こりゃ、どうもならん」
   船頭はひしゃくをなげすてると、力まかせにろをこぎだしました。
   ところが、海ぼうずたちがじゃまをして、船は前にすすみません。
   それどころか、右へ左へと、船をゆさぶるのです。
   船頭がきもをつぶして、
  「た、たすけてくれ!」
  と、さけぶと、海ぼうずたちのすがたが、フッと、きえてしまいました。
  「・・・ああ、たすかったか」
   ホッと息をついてあたりをみまわすと、また、海がザワザワとさわぎはじめ、こんどは、さっきなげすてたひしゃくと同じものが何十本もでてきて、船のなかへ、ザブンザブンと、水をくみ入れはじめたのです。
  「な、なにするか!」
   けんめいに水をかきだしますが、間に合いません。
   海ぼうずたちは、つぎつぎに顔をだして、
  「はよう、しずんでしまえ。しずんでしまえ」
  と、いいながら、あとからあとから、水をくみ入れました。
  「やめてくれえ。たすけてくれえ」
  と、船頭がなきさけびますが、水はドンドンあふれて、ついに船はしずんでしまいました。
   海へなげだされた船頭は、死にものぐるいでおよぎはじめましたが、すぐに足をつかまれ、くらい海の底へ引きずり込まれてしまったのです。
おしまい