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5月26日の日本の昔話
  
  
  
  舌をぬくおばけ
 むかしむかし、ある村の男たちが話しておりました。
  「八畳(はちじょう)のざしきに、八人でとまると、おばけがでるっちゅうぞ」
  「そんなこと、あるもんか」
  「いや、ほんとにでるっちゅう話だ」
  「それなら、ためしに、とまってみるとしよう」
   こうして、村はずれのあき家の八畳のざしきに、八人してとまることになりました。
   さて、そのばんのうしみつどき(午前二時ごろ)。
   八人のうち、七人はグッスリとねむってしまいましたが、たいそうこわがりの男が、一人だけねむれませんでした。
  (おばけがでるのかな? 妖怪がでるのかな? それともゆうれいかな? どれにしてもこわいよー)
   ふとんの中でブルブルふるえていますと、ざしきの戸が音もなく開いて、てぬぐいをかぶった若くて色の白い女の人が、けむりのように入ってきました。
   女の人はねている男の枕元にすわると、顔をピタリとくっつけて、男のくちびるをすってはニヤリと笑うのです。
   女の人はつぎつぎと男たちのくちびるをすっては笑い、ついに、ねむれないでいる男のところにきました。
   男はふとんをはねのけると、
  「おばけだー! たすけてくれー!」
   むがむちゅうで、家へと逃げ帰りました。
   あくる日、男が村の人たちと、あの空き家に行って八畳のざしきをのぞいてみると、七人が七人とも、舌を抜かれて死んでいました。
   このことがあってから、しばらくたったある日のこと、男はたびにでかけました。
   とちゅうで日がくれてしまったので、一けんの家をみつけてやどをたのむと、
  「それはお困りでしょう。さあ、どうぞ」
   女の人が、しんせつにとめてくれました。
   男がごはんをごちそうになってから、
  「おらの村で、じつは、こんなおそろしいことがあったんだよ。八畳に八人でとまるとおばけがでるといううわさなので、ためしにとまってみるとな。そのばんのうしみつどき。ざしきの戸が音もなくあいて、てぬぐいをかぶったわかくて色の白い女が、スゥーッと入ってきたんだ。そして、男のくちびるをすっては、ニヤリとわらっただよ」
  と、あのばんのできごとをはなすと、
  「それはもしかして、こんな顔では・・・」
   女の人は手ぬぐいをかぶって、ニヤリとわらいました。
  「うわぁー! でたー!」
  「こんやは、にがさないよ」
   男はにげだそうとしましたが、あっという間に舌を抜かれてしんでしまいました。
おしまい