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5月31日の日本の昔話
  
  
  
おんぼろ寺のカニもんどう
 むかしむかし、ある村のはずれに、和尚(おしょう→詳細)さんのいないオンボロのあき寺がありました。
   いつまでもあき寺ではこまるので、
  「よその村から、和尚さんをたのもう」
   村の人たちは、これまでになんどか、あたらしい和尚さんにきてもらいました。
   けれど、どの和尚さんも、その夜のうちにばけものにおそわれて、つぎの朝にはもう、くいころされてしまっているのです。
   もう、いく人の和尚さんが、ばけものにくわれたことか。
   村の人たちは、あたらしい和尚さんをたのむにたのめなくて、あきらめていました。
   ですから、寺はあれほうだいにあれはてています。
   ある日の夕方、この村に、たびの坊さんがやってきて、一けんの家の戸をたたきました。
  「どうか、ひとばん、とめてもらえんだろうか?」
   坊さんは、たのみましたが、
  「あいにくと、家はせまくておとめできねえが、このさきにあき寺があるで、そこにとまったらどうだべ」
   村の人にこういわれて、坊さんはあき寺にとまることにしました。
   いってみると、これがひどいあれ寺です。
   ですが、坊さんは、
  「夜つゆがしのげるだけでも、ありがたい」
  と、本堂にすわって、まずは、おきょうをあげはじめました。
   するとなにやら、あやしいけはいがします。
   風もないのに、ローソクの火がユラユラとゆれ、本堂の阿弥陀(あみだ→詳細)さまが、おそろしげなかおになりました。
   あみださまは、顔をまっ赤にして、大きな目の玉をグルグルとうごかしながら、
  「よくきたな。グフフフフッ」
  と、坊さんをにらみつけます。
  (この寺に住みついている、ばけものだな。まあ、ほっておこう)
   たびの坊さんが、さらにおきょうをあげていると、黒いはかまの小坊主があらわれて、
  「おまえと問答(もんどう)をしたい。こたえられねば、とってくうが、いいか」
  と、ききました。
  (やれやれ、しかたがない。あいてをしてやるか)
   坊さんはおきょうをやめると、小坊主にいいました。
  「いいだろう。問答をしてやろう」
  「では、いくぞ。大足二足(たいそくにそく)、両足八足(りょうそくはっそく)、二眼天眼通(にがんてんがんつう)にして、色紅(いろべに)とは、これいかに?」
  「アハハハハハッ。これはたやすいもんどうだ。足の数でわかった。それは、カニだ!」
   たびの坊さんがどなると、
  「ギャアアーッ!」
  とたんに、なにやらさけびこえがあがって、あとはシーンと、しずまりかえりました。
   小坊主もきえ、阿弥陀さまも、いつものおだやかな顔にもどっていました。
   つぎの朝、村の人たちが、
  「ゆうべの坊さまも、ばけものにくわれてしまったべ。気のどくなことしたなあ」
  と、あき寺にやってくると、たびの坊さんは、本堂のそうじをしています。
  「あんれ? ばけものは、でなかったかね?」
  「いや、でることはでたが、問答をといて、どなりつけたら、どこかへきえたようじゃ。いま、そうじをしながらさがしているところだ。すまんが、てつだってくれんか?」
   みんなでさがしまわると、お寺のえんの下に、大きなカニが死んでいました。
   たびの坊さんは、カニのばけものにころされた、これまでの和尚さんたちをねんごろにとむらって、この寺の和尚さんになりました。
おしまい