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9月26日の日本の昔話
  
  
  
  キセルおさめ
 むかし、江戸いちばんの大きなキセル(→詳細)屋へ、お城から使いの者がとんできました。
  「キセルを三千本。あすの朝までに、かならずおさめるように」
  と、いう注文です。
   さあ、たいへん。
   いくら大きなキセル屋でも、一日で三千本をおさめるのは、よういなことではありません。
   家じゅうの者はもちろん、しろうとまでやとって手つだわせ、夜も寝ずに、なんとか、らお(キセルの火皿と吸口とを接続する竹管のこと)三千本に、がん首、吸い口を取り付けて、ホッとしたとき、
   コケコッコー!
  「それ、朝が来たぞ!」
   主人は、番頭(ばんとう→詳細)たちに荷物をせおわせ、いそいでお城へおさめに行きました。
  が、とちゅうで、
  「しまった!」
   ふと気がついて、まっ青になりました。
  「キセル三千本はできたが、らおのふしをぬいてなかったわい!」
   らおは、竹でできています。
   竹のふしをぬかなくては、息がとおりませんから、タバコがすえるわけがありません。
  「すえぬキセルをおさめたのではな。といって、やくそくどおりにおさめねば、こっちの首がとぶかもしれぬ。・・・ええい、ままよ。そのときは、そのときのこと」
   キセル屋はかくごをきめて、三千本のつまったキセルを、そのままお城にとどけました。
   お城につくと、役人が受けとりに出てきました。
   その顔を見て、主人はドキッとしました。
   役人たちの中でも、この役人は、こまかいことまでよくしらベる、商人いじめのうるさい役人です。
   キセル屋は、あぶら汗をながし、ヒヤヒヤしながら見ていました。
   役人は、まずキセルのかずをじぶんでしらベて、
  「よし。三千本、まちがいなし」
   こんどは、らおに息もれがないかと、わざわざ一本一本とりあげて、がん首ヘおやゆびをおしあて、プッとふいてみては、
  「よし」
   ふいてみては、
  「よし」
  と、三千本を、みんなじぶんでしらべました。
   そして、
  「よくぞ、まにあわせた。キセル三千本、たしかに受けとりもうした」
  と、いって、ひっこみました。
   キセル屋は、ひや汗をふき、走るように家にかえってきたということです。
おしまい