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10月2日の日本の昔話
  
  
  
  棺の中のかま
 むかしむかし、ある村に、平太郎(へいたろう)という、年とったおばあさんとふたりぐらしの男がいました。
   とても、きもっ玉のふとい男で、いつもいつも自分のことを、「なんでも平気(へいき)の平太郎」と、じまんしています。
   さて、ある晩のこと。
   村の若いものがおおぜい集まって、きもだめしをしていました。
   いろいろおそろしいことをためしたあげくに、ひとりがいいだしました。
  「どうじゃ。焼き場(火葬場のこと)のお堂までいって、棺(ひつぎ→かんおけ)の中の、死人の胸にだいとる、カマ(→草刈の道具)を持ってくるもんはおらんか?」
   むかしは死んだ人をすぐには焼かず、焼き場のお堂に棺に入れたまま、ひと晩おいておくならわしがありました。
   そのとき、死んだ人の体に魔物が取り付かないように、魔よけのまじないとして、死人の胸にカマを持たせるのでした。
  「どうした、どうした。ふだんは大口たたいとるくせに、だれもいけんのか?」
  「・・・・・・」
   だれも、そんな怖いことはしようとしません。
   そのとき、平太郎がニヤリとわらって立ちあがると、
  「そのはなし、平太郎さまがひきうけたわい」
  と、言いました。
   暗い夜道をどんどん歩いて、焼き場までくると、プーンと死人のにおいがします。
   平太郎はお堂に入って、棺のふたを手さぐりであけると、死人の腹のあたりからカマを取り出して、そとへとびだしました。
   ところがそのとき、あたりから人の声がします。
   どうやら、平太郎をよんでいるようす。
  (ははあん、こりゃあ、ばけもののしわざだな)
   とっさに、平太郎はカマをこしにさすと、そばの松の木に、スルスルスルッとよじのぼりました。
   そして、木のえだにこしかけて、ジッとようすをうかがっていました。
   すると、山の下のほうから、たくさんのちょうちん(→詳細)をともした行列がやってきます。
  (はて、こんな真夜中(まよなか)に葬式(そうしき)がくるなんて)
   棺をかついだ行列は、
  「平太郎やーい。おまえのばあさまが、死んだぞー」
   そういって、木の下をとおっていきます。
  (ヘへっ、やつら、うまいことばけたもんだ)
   行列は焼き場の前でとまると、棺から死人をだしました。
  (ありゃ。死人まで、うちのばあさまとそっくりじゃ。ばけもんも、なかなかやりおるわい)
   平太郎はこわいどころか、すっかりかんしんして見ています。
   行列のれんちゅうは、まきをつみあげると、ドンドンもやしました。
   みんなで火の上に死人をのせると、また、ちょうちんをふりふり、もどっていきました。
  (やれやれ、これですんだわい)
  と、平太郎が松の木からおりようとすると、死体を焼いている火が、きゅうにゴオーーッと、もえあがりました。
   そして、たきぎの上にねかされていたおばあさんの死体が、ムクムクッと、おきあがったのです。
  「うん? あれはなんじゃ?」
   よく見るとおばあさんではなくて、口が耳までさけた、おそろしい鬼ババにかわっていました。
   鬼ババは火柱(ひばしら)の中につっ立って、平太郎をにらみつけると、クワッ! と大口をあけてわめきます。
  「やい、この親不幸ものめ。おまえのおババが焼かれとるちゅうに、しらん顔しとるとは。おのれ、食うてやる!」
   鬼ババは火の中からとんででると、松の木の根もとまで走ってきて、ギシギシと木をゆさぶりはじめました。
  (こりゃ、おとされてはかなわん)
   平太郎が木にしがみつくと、鬼ババはするどいつめで、ガリガリと木をのぼってきました。
   ビックリして、平太郎は上へ上へとにげます。
   にげてにげて、とうとう、てっぺんまできてしまいました。
  「あっ!」
   ついに、鬼ババに片足をつかまれました。
  「えいっ、この鬼ババめ!」
   平太郎はこしのカマをひきぬくと、鬼ババめがけて思いっきりふりおろしました。
   ギャーッ!
   すごい声をあげて、鬼ババはまっさかさまにおちていきます。
   ドシーン!
  と、大きな地ひびきがして、それっきり、動かなくなってしまいました。
   あくる朝。
   きもだめしのれんちゅうがやってきて、木の上でふるえている平太郎を見つけました。
   みんなは平太郎の話を聞くと、そのへんをしらべてみました。
   すると、なんとお堂の中に、首をカマで切られた大ダヌキが、死んでいたそうです。
おしまい