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2月6日の日本の昔話
  
  
  
  雪の夜どまり
 むかしむかし、ある年の冬のこと。
   ひとりのまたぎ(→狩人のこと)が、ふかい山のなかでえものをおっかけているうちに、すっかり日がくれてしまいました。
   さてどうしたもんだろうと、あたりをみまわすと、それほど遠くないところに、ポツンとひとつあかりがみえました。
  「こら、天のたすけだ」
   またぎは、あかりのほうへと歩きだしました。
   ふかい雪の中をころがったり、しりもちをついたりして、やっとたどりついてみますと、それは炭焼き小屋でした。
   ドンドンドン
   またぎが小屋の戸をたたくと、親方が顔をだしてきました。
  「おら、秋田からこの山さきた、またぎだども、山んなかでこの大雪だ、家さ、かえろうにもかえられねえ。なんとかひとばん、どこぞのかたすみでええから、とまらしてくれねえべか」
   またぎが、すがるようにしてたのむと。
  「ああ、ええとも、ええとも。まんずこんなあばら家だが、入ってけれ」
   親方はこころよく、またぎをむかえ入れて、ろばた(いろりのそば)へすわらせました。
   またぎがホッとしていると、親方がこんなことをいいだします。
  「じつは、ひとつたのみてえことがあるだ。こんな大雪だども、おら、なんとしても下の村さおりていかねばなんねえ用事があってな。ちょうどいいぐあいに、おめえさまがきてくれた。なんともすまんだども、じきにかえってくるけに、ちょっとのあいだるすをたのまれてけれ」
   またぎは、小屋に入れてもらったお礼にと、
  「ああ、ええとも、ええとも。おやすいご用だ。安心していってけれや」
  と、るすをひきうけました。
  「それをきいて大だすかりした。ただ、火をもやすことだけは、わすれねえようにしてけれや。そこのすみっこにたきぎがなんぼでもあるから、どんどんもやしてけれ」
  と、いいのこして、親方は大雪のなかをいそぎ足ででていきました。
   またぎはろばたにポツンとひとりすわって、たきぎをくべているうちに、からだもあったまってきたし、つかれもでてきたので、いつのまにかウトウトと、ねむってしまいました。
   ハッと気がつくと、火が下火になっています。
   へやのすみっこのほうからたきぎをもってきて、くべながら、
  「それにしても親方のかえりはおせえなあ。もっとも、この大雪でこの暗さじゃあ、きっとなんぎしているんだべ」
   などとかんがえながら、またウトウトと、ねむってしまいました。
   どのくらいたったのか、ゾクゾクと寒さをおぼえて目をさましてみると、もうすっかり火がきえてしまっています。
  「こらいかん、火がきえたら、オオカミ(→詳細)のやつがやってくるぞ」
  と、たちあがって、たきぎをとりにいこうとすると、へやのかたすみにたてかけてあるびょうぶのかげで、なにやらものの動くけはいがしました。
  「はて、この小屋には、今夜はおらのほかには、だれもおらんはずじゃが」
   するとこんどは、ズリッズリッと音がしました。
   またぎがこわごわそっちのほうをみてみると、びょうぶのむこうに、女の人の首がみえます。
  「わあっ、ばけもんだ。た、た、たっ、たすけてけれ!」
   おもわずさけぶと、そこらにあった杉の葉やたきぎやらを、かまわずなげこんで、大いそぎで火をつけました。
   火がパッと、あかるくもえあがります。
   すると、なにやらバタバタとにげていくような音がして、やがてしずかになりましたが、またぎはもう、生きたここちがしません。
   ガタガタとふるえながら、
  「はやく夜が明けてけれ、はやく親方かえってきてけれ」
  と、おんなじことをとなえるばかりです。
   ようやく夜が明けてきました。
   またぎがホッとしたところへ、親方が村人を四人ばかりつれてかえってきました。
  「ああ、すまねがった。とうとう夜が明けちまったが、ゆんべはよくねむれたべか」
  「いんや、ゆんべは、えらいおっかねえめにあった。とてもねむられるどこのさわぎじゃねえ」
  と、ゆうべおこったことを、すっかり親方にはなしてきかせたのです。
   すると親方は、あらたまった顔になって、
  「なんともすまねがった。じつはにょうぼうが、きゅうにからだのあんべえ悪くなってな、死んでしまったんだ。おめえさまのくる少し前のこんだった。それで、村さおりて人をよばってこようとおもったども、るすのあいだに火がきえてしまえば、オオカミがやってきて、にょうぼうを食ってしまう。はて、どうしたもんだろうと思案しておったところへ、おめえさまがやってきてくれた。それで、おめえさまには悪いとおもったども、だまってるすばんをたのんで、でていったっちゅうわけだ。夜中に火がきえたとき、オオカミのやつが、にょうぼうばつかまえてでていこうとしたのだべえ。おめえさまが火をもしてくれたおかげで、たすかっただ。こわいめばあわして、めんほくしだいもねえ。これこのとおりあやまるで」
  と、またぎに頭をさげてあやまりました。
   ゆうべは、ばけもんのほうにすっかりきもをつぶしてしまって、オオカミには気がつきませんでしたが、そういわれてあたりをみまわすと、たしかに小屋のゆかに、けものの足あとがいくつかついています。
   またぎは山のなかでなん十年とくらしてきましたが、こんなおそろしいめにあったのは、あとにもさきにも、これがはじめてだったということです。
おしまい