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3月25日の日本の昔話
  
  
  
  酒を買いに行くネコ
 むかしむかし、あるところに、だんなとおかみさんがいました。
   二人の間には、七つになる子どもがいます。
   とても元気な子どもで、なにを着せても一日で泥だらけにしてしまうのです。
   だからおかみさんは、毎日のように子どもの着物をせんたくしていました。
   さて、ある朝、子どもに着物を着せようとしたら、洗たくしたはずの着物がひどく汚れていて、なんだかしめっぽいのです。
   いくら元気な子どもでも、夜中に出歩くわけがないので、
  (いったい、どうしたわけだろう?)
  と、ふしぎに思いました。
   それでも子どもに心配させてはいけないと、だまっていましたが、こんなことが毎朝続くようになったので、こわくなり、だんなに相談(そうだん)しました。
  「よし、わしが調べてやる」
   次の晩、だんなは洗たくしたばかりの子どもの着物を、自分のまくらもとのびょうぶにかけて、眠ったふりをしていました。
   するとまもなく、スーッとふすまが開いて、ネコが入ってきました。
  (なんだ、うちのネコか)
   ホッとして見るともなく見ていたら、ネコが立ちあがり、びょうぶにかけてある子どもの着物をつかんだのです。
  (まさか、ネコが着物を着るなんて)
  と、思っていたら、ネコはそれを着て部屋を出ていくではありませんか。
   だんなは、あわてて布団からはい出し、ネコのあとを追いかけましたが、すぐに姿を見うしなってしまいました。
   だんなは、おかみさんを起こしてわけを話すと。
  「おまえさん、ネコが年をとると化けるというのは、ほんとだよ。いまのうちに追い出したほうがいいかもしれないね」
   朝になると、いつもどってきたのか、ネコはこたつの中で気持ちよさそうにねむっていて、ふだんと変わったところがありません。
   それでも、びょうぶにかけてある子どもの着物が、夜つゆにグッショリとぬれていました。
  (さて、どうしたもんか。長い間かわいがってきたのを、急に追い出すなんてあんまりだな)
   おかみさんも、同じ気持ちでした。
   ゆうべはあんなことを言ったけど、このネコが人間に化けるなんて、どうしても考えることができません。
   すると、そこへ酒屋の番頭(ばんとう→詳細)がやってきて、
  「酒代がたまっているので、もらいにきました」
  と、言います。
  「なんだと。わしは酒など飲まんぞ」
  「そんなこと言ったって、毎晩、子どもを使って買いにきてるじゃないですか」
  「そりゃ、なんかのまちがいだろう」
  「とんでもない。この子が、とうちゃんの酒くれ、金はあとで払うからと」
   番頭は、ムッとして、子どもを指さします。
  (ははん。さては、ネコのやつ)
   だんなはネコをにらみましたが、まさか、ネコが子どもに化けて酒を買いに行ったとは言えません。
  「すまん、すまん。女房にないしょだったもんで」
   だんなは、わざととぼけて、たまっていた酒代をはらいました。
   番頭が出ていくと、ネコはこたつを出て、子どもといっしょに外へ遊びに行きます。
  「やっぱり、とんでもないネコだわ」
   おかみさんが言いました。
  「しかし、ほんとにうちのネコかどうか」
  「きまってるじゃないの。毎晩、子どもの着物が汚れていたりするのがなによりのしょうこです」
  「そんなら、もう一度たしかめてみるか」
   その日の夕方、だんなは町へ行くと言って、家を出ました。
   夜になって、酒屋のものかげにかくれていたら、なんと子どもが、とっくりをさげてやってくるではありませんか。
   まったくよく化けたもんで、どこから見ても自分の子どもにそっくりです。
  (今日こそ思い知らせてやる)
   子どもに化けたネコが酒屋を出ると、だんなはすぐに後を追いかけました。
   ネコはどんどん歩いて、村の方へもどっていきます。
  (どこへ行くのだろう。まさか、このまま家へ帰るはずはないし)
  と、思いながら、こっそりついていくと、ネコは地蔵堂(じぞうどう)の前で立ちどまり、林の方に向かって呼びかけました。
  「おやじさん、酒を買ってきたよ」
   すると、イヌほどもある大きなネコが、のっそり出てきて、
  「いつもすまんのう」
  と、言いました。
   だんなは、ちょっとこわくなりましたが、思いきって声をかけました。
  「こらっ、おまえはうちのネコじゃないか!」
   そのとたんに、二匹のネコはギクッとしてふり返り、大あわてで林の中へ逃げこみました。
   それっきりだんなの家のネコは、二度ともどってきませんでした。
   そして、何日かして酒屋へも行ってたしかめたら、あの夜いらい、子どもは酒を買いに来なくなったということです。
おしまい