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3月25日の小話

自分であがる
   だんなにおわれて逃げていたどろぼうが、道のまんなかに、大きくあいたあなの中に、ドスンとおっこちてしまいました。
   おいかけて来ただんなが、中をのぞいてみますと、かなり深いあなでした。
   そこに、ちょうど若い男がやって来たので、
  「ちょうどよかった。すまんが、中のどろぼうを引き上げてくれ」
  と、たのみますと、この男はなかなかずるがしこい男で、ニヤニヤしながら、
  「そうですね、一分(2万円ほど)くださるなら、引き上げてやってもいいですよ」
  と、いいました。
   すると、あなの中のどろぼうが、すかさず、
「だんなさま、一分もくださるのでしたら、あっしが自分であがります」
おしまい