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3月26日の日本の昔話
  
  
  
  八匹のウシ
 むかしむかし、ある村に、金持ちのだんながいました。
   ある日、このだんなのところに、村一番のとんち男がかけこんできました。
  「いやはや、めずらしいことがあるもんです。だんなにもぜひみせたくて、お知らせにきましただよ」
  「いったい、何ごとだね」
  「たのきのまたに、ハチが巣(す)をかけてるだよ」
  「なんじゃと!」
   このあたりでは、タヌキのことをたのきとよんでいます。
  「いくらなんでも、そんなバカな」
   だんなは、首をふりました。
  「うそでねえって。きてみなせえ。ほんとだったら、どうするだね」
  「そうさなあ。わしがもっている八匹のウシを、全部やろう」
  「よしきた。さあ、ごあんないしますべえ」
   男はだんなを、近くの田んぼにつれていきました。
   すると、田んぼの中のハゼの木に、ハチがせっせと巣をかけていました。
  「ほれ、田の木のまたに、ハチがすをかけているだべ。約束どおり、八匹のウシをいただきますべえ。ウッシシシ」
   男はしてやったりです。
   八匹のウシがあれば、とうぶん、らくをしてくらせます。
  「田の木とたのき。まんまと、だまされてしまった。しかし、八匹のウシを取られては、だいそんがいじゃ。なさけない、なさけない」
   だんながトボトボ帰ってくると、おかみさんがわけをききました。
   わけをきいたおかみさんは、
  「八匹全部、やることはありませんよ。一ぴきでたくさん」
  と、おちついていいます。
  「しかし、約束してしまったのだ」
  「まあ、まかせておきなさい」
   おかみさんはなにを考えたのか、八匹のウシの中から、一番やせウシをつれてきて、しっぽの先に、こわれたうえきばちのはちをむすびつけました。
   そこに、とんちものが、八匹のウシをもらいにくると、
  「はい、ハチひきのウシ」
   おかみさんは、ウシのおしりを、ポンとたたきました。
   なるほど、『八匹=ハチ引き』にちがいありません。
   とんちものは、おかみさんのとんちに感心して、ガラガラとハチをひきながら、やせウシをつれて帰ったということです。
おしまい