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3月26日の世界の昔話
  
  
  
  月の見ていた話 二夜
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 こんばんわ。
   わたしは、高い空の上にいる月です。
   タ方から朝になるまで、いろんな国のいろんなところをながめます。
   では、ゆうべ見たことを話してあげましょう。
   それは、暗くなったばかりのころです。
   ある家の庭を見おろしていると、すみのほうにニワトリ小屋がありました。
   そのまわりを小さい女の子が、バタバタかけまわっているのです。
   小屋の中には、お母さんどりが一羽と、ヒヨコが十一羽いました。お母さんどりは、こわがるヒヨコたちを羽の下にかくしてオドオドしています。
  (ニワトリたちは、眠っているところを起こされて、どんなにビックリしただろう)
  と、わたしは思いました。
   コッ、ココッ、ココッと、お母さんどりは、鳴きさけびます。
   きっと、
  「むこうへいったらあぶないよ。お母さんのそばを、離れるんじゃありませんよ」
  と、ヒヨコたちにいっているのでしよう。
   小さい女の子は、かけまわったり、金あみをゆすったりします。
   ニワトリたちが、かわいそうです。
   でも、わたしは高い空にいるのです。
   女の子を、とめることはできません。
   そこへ、家の中からお父さんらしい人がとびだしてきました。
   お母さんどりのさけび声を、聞きつけたのでしょう。
  「これ、およし。寝ているところを、おいたしちゃいけないよ」
   お父さんは、女の子を連れて家の中へはいりました。
   わたしは、ホッとしました。
   ところが、きょう、夜になってからです。
   わたしはきのうの、あのトリ小屋のある庭を見ていたんですよ。
   もう、ヒヨコもお母さんどりも、とっくに小屋の中で眠っていました。
  『そろそろ、人間たちも眠るころだな』
   わたしが、そう思ったときです。
   家の中から、きのうの小さい女の子がまた出てきたのです。
   女の子は、そろりそろりと、トリ小屋へ近づいて戸をあけると、中へ入っていくではありませんか。
   眠っていたお母さんどりも、ヒヨコたちもビックリ。
   鳴きながら、パタパタと小屋の中を逃げまわります。
   小さい女の子は、お母さんどりの行くほうへ、クルクル追いかけます。
  『なんて、しようのない子だ。眠っているトリをいじめるなんて!』
   わたしは、おこりたくなりました。
   でも、空にいる月なので、やっぱりどうすることもできません。
   ハラハラしていると、お父さんがやってきて、女の子をつかまえました。
  「よしなさい。だめじゃないか。きのういい聞かしたのに、またニワトリをいじめたりして」
   お父さんがこわい声でしかると、女の子は涙を浮かべました。
  「さあ、いってごらん。どうしてニワトリをいじめるんだい?」
   お父さんがたずねると、女の子は、わっと泣きだしました。
  「ちがうわ。いじめたりなんかしないわ。わたし、お母さんどりにあやまりにきたの。きのう追いかけたから、ごめんなさいねって、キスしようと思ったのよ」
  「そうか、そうだったのか」
   お父さんはニッコリして、女の子のひたいにやさしくキスしました。
  『ああよかった。あの子はやっぱり、いい子だったんだ』
   わたしも、うれしくなりました。
   それで高い空から、女の子を明るくてらしてやりました。
おしまい