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4月27日の日本の昔話
  
  
  
  おばあさんにばけた古オオカミ
 むかしむかし、ひとりの飛脚(ひきゃく→詳細)が、あるとうげにさしかかりました。
   そろそろ暗くなりかけていましたが、旅にはなれていたので、今夜はとうげで野宿(のじゅく)をして、あすの朝早くむこうの村へおりようと、すたすた山道をのぼっていました。
   とうげへでて、あたりをみまわすと、少しさきのほうに大きな木があります。
  「よし、あの木の上がいい。あそこなら、オオカミ(→詳細)に食われることもなし、ねごこちもよさそうだ」
   飛脚は荷物になわをつけて、そのなわのはしをこしにゆわえると、木をスルスルとよじのぼっていきました。
   大きなえだにこしをおろすと、なわをひっぱって荷物をひきあげました。
   月のない暗いばんで、もの音ひとつありません。
   飛脚は、いつのまにかグッスリとねこんでしまいましたが、なにかもの音がしたような気がして、ふと目をさまします。
   ジッと耳をすましていると、なにやら木の根もとのあたりで、ザワザワしたけはいがあります。
   よくみてみると、そこにはひかった目が、なん百とうごめいていました。
  「オオカミだ!」
   飛脚は、ゾゾゾッと、せすじが寒くなった。
   やがてオオカミたちは、木の根もとをとりかこむと、一ぴきのオオカミが、ヒョイと、べつのオオカミのかた車にのりました。
   また一ぴき、また一ぴき。
   ヒョイヒョイヒョイと、オオカミがつぎからつぎへとかた車をして、上へ上へとのぼってきます。
  「これがうわさにきく、オオカミばしごっちゅうもんか」
   飛脚はもう、生きたここちがしません。
   だんだん、だんだん、オオカミが飛脚のいるえだへ近づいてきます。
   ところが、もうちょっとのところで、オオカミの数がつきてしまいました。
  「こりゃ、あかん」
   一番上のオオカミがいいました。
  「だれか、七兵衛(しちべえ)のとこのおばばをよんでこい」
   一ぴきのオオカミが、いそいで村のほうへ走っていきました。
  「なに? 七兵衛とこのおばばだと。あのおばばとオオカミと、なんのつながりがあるだ?」
   飛脚は首をかしげました。
   しばらくすると、まだらの毛なみをした大きな古オオカミがやってきました。
  「これが、七兵衛とこのおばばか。どうもわからん」
   飛脚がかんがえこんでいると、古オオカミは、
  「よーし、わしがのぼっていって人間を食ってやる」
  と、いいながら、ガサガサ、ゴソゴソとオオカミばしごをのぼりはじめました。
   飛脚のいるえだに、古オオカミの前足がかかりました。
   そして、もうかたほうの足をのばして、飛脚の着物のすそをつかもうとします。
   そのとき、飛脚はむがむちゅうで、ふところに入れていた短刀をぬくと、いきなり古オオカミのかた足にきりつけました。
  「ギャーーーッ!」
   ひめいとともに、古オオカミが地面へ落ちました。
  と、どうじに、オオカミばしごが、
   ドドドドドー!
  と、地ひびきたててくずれ落ち、起き上がったオオカミたちは、バラバラに逃げていきました。
   やがて、長い夜がやっと明けました。
   飛脚は木からおりると、七兵衛の家をたずねました。
  「どうだ、ばあさまはたっしゃか?」
  「うん、元気は元気なけど、ゆうべ手をけがしてなあ。おくにねてるわ」
  と、いいました。
  「そうか、じゃあちょっと、ばあさまをみまうか」
   飛脚がおくのへやへいってみると、
  「いたい、いたい」
  と、おばあさんがうなりながらねています。
  「どうした、ばあさま」
   飛脚がきくと、
  「ゆうべ夜中にしょうべんにいって、つまずいてころんで、手をけがしてしもうたんや。ほいでねとるんや」
   おばあさんは、むこうをむいたまんまでこたえます。
   飛脚は、これはゆうべの古オオカミにちがいないとおもいました。
  「よし、ばけの皮をひんむいてやろ!」
   飛脚はいきなりふところから短刀をぬくと、おばあさんの首へグサリとつきさしました。
  「ギャーーーッ!」
   おばあさんは、ひめいといっしょにてんじょうまでとびあがると、一ぴきの大きなまだらの古オオカミとなって、ドサッと落ちてきました。
  「やっぱり」
   もの音にビックリしてかけこんできた家の人たちに、飛脚はゆうべのとうげのできごとをはなしてきかせました。
   七兵衛のおばあさんを、この古オオカミが食い殺して、そしておばあさんにばけていたというわけです。
おしまい