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4月27日の小話

三人かご
   いまは、タクシーという、べんりな物がありますが、むかしはそんなものはありません。
   まあ、「かご」というものが、いまのタクシーのようなものでしょうか。
   そんな、むかしの話でございます。
   ある男が急用を思いだして、かごにのりました。
  「これ、かごや。急用でいそいでいるんだ。金はたくさん出すから、いそいでくれ」
  「へい。では、しっかりつかまっていてくださいよ」
   それからちょうしよく、
  「えいっほうっ、えいっほうっ」
  と、いそいでゆきますが、どういうわけか、うしろからきたかごにおいぬかれてしまいました。
   客の男は腹を立てて、
  「いそいでくれというのに、なぜ、いそいでくれない! みてみろ、いま、うしろからきたかごが、先にいったぞ」
  と、いうと。
  「でもだんな、そいつは、むりですぜ。なにしろ、向こうは、三まいですからね」
  「三まいとはなんだ?」
  「へい、三人でかつぐことです」
  「三人でかつげば、そんなに早いのか」
  「へえ、そりゃあもう。まあ、お代金もそれなりですがね」
   すると、客の男、
「よし! それならば、かごをとめろ! 金は三人分はらってやるから、おれも出て、三人でかつごう」
おしまい