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5月2日の日本の昔話
  
  
  
  雷さまとクワの木
 むかしむかし、お母さんとニ人ぐらしの男の子がいました。
   ある日、お母さんが男の子にいいました。
  「畑にナスをうえるだに、ナスのなえを買ってきてくんろ」
  「はーい」
   男の子は、いちばんねだんの高いなえを、一本だけ買ってきたのでした。
  「なんで、もっとやすいなえをいっぱい買ってこなかっただね」
  「さあ? なんでだかわからねえ」
   でも男の子は、心のなかで、そっと思いました。
  (一本きりでも、ねだんの高いなえは、きっとたくさん実がつくだよ)
   男の子の思っていたとおりでした。
   何日かすると、ナスのなえはグングンのびていったではありませんか。
  「どうだ、おっかあ。やっぱ、ねだんの高いなえはちがうじゃろう。わあ! 雲までのびていったあ」
   ナスのくきは、雲をつきぬけていきました。
  「アハハ、アハハ、うれしいなあ」
   男の子は、いつまでも空を見上げています。
   ナスは、うすむらさきの花をちらせた後、それはそれはみごとな実をいっぱい実らせたのです。
   つぎの日の朝、男の子は家からはしごを持ち出しました。
  「これ、どこいくだ。あぶねえからやめとけ。こらっ!」
   お母さんがはしごをとりあげようとしましたが、男の子はナスの木に、はしごをかけてのぼっていきます。
  「あぶなくねえだ。ちょっくら雲さ見てくる」
  「これっ、やめなってば。おちたら死んでしまうでねえだか。あん人も、屋根からおっこちて死んだんだ」
   お母さんは、いまにも泣き出しそうな顔で男の子を見送りました。
  ♪とうちゃん死んだの、五年前。
  ♪三十ちょっとで、こんころり。
  ♪あれからかあちゃん、泣き虫だい。
  ♪だけどおらは、強虫ころり。
  ♪山さのぼって、こんころり。
  ♪田んぼさもぐって、こんころり。
  ♪こんころり、こんころり。
   男の子は、うたいながら、
  「うんしょ、よいしょ」
  と、天にのびたナスの木をのぼっていきました。
   男の子は、いつのまにか雲の上に出ていました。
   なんと雲の上には、りっぱなおやしきがあります。
   男の子はふしぎに思って、おやしきのとびらを、そうっとあけてみました。
  「あっ、星だ、星だっ!」
   そこは、星の世界でした。
   そして、男の子の目の前に、ナスを持ったおじいさんがいました。
  「それは、おらのナスでねえだか?」
  「ほう、このナスは、おまえさんがうえたナスか。毎日毎日、おいしくいただいていますよ。それなら、おまえさんに、なにかおれいをしなきゃならんなあ」
  と、いうわけで、男の子はおじいさんにつれられて、雲の上をどんどん、どんどん歩いていきました。
   おじいさんのおやしきにつくと、二人のきれいな娘がおりました。
  「わあっ、おどろいただなあ」
   おじいさんと娘たちは、男の子にたくさんのごちそうを出して、歌ったりおどったり、楽しいえんかいがはじまりました。
  「ほれ、ほれ。そりゃ、そりゃ」
  「いいぞ、いいぞ」
   えんかいは、いつまでもいつまでもつづきました。
   やがて星が消え、朝の光がさしこんできました。
   おどりつかれたのか、男の子はいつのまにかねむってしまいました。
   男の子にとって、こんなに楽しかったことは、ひさしぶりのことです。
   どのくらいねむったでしょうか。
   男の子は目をさまして、あたりを見まわしましたが、だれもいません。
  「あれ? みんな、どこさいっただ」
   男の子の声が聞こえたのか、ふすまのむこうからおじいさんの声がしました。
  「わしたちは、ちょっくらしごとにいってくるけん、るす番しといてくれや」
  「雲の上にもしごとがあるだか?」
  「そりゃあ、あるわさ。これで、けっこういそがしいのよ」
  「なら、おらもしごとしたいけん、つれてってくれろ」
  と、いいながら、男の子はふすまをガラリとあけたのです。
  「うわっ! 鬼だ、鬼だぁ!」
   なんと、あのおじいさんは、あたまにツノがはえた鬼だったのです。
   そばには二人の娘も立っています。
   こわくなった男の子は、バッタリたおれて死んだふりをしました。
  「おら、もう死んだだ! 死人の肉はうまくないけん、食えねえだ」
   死んだふりをしながら、大声でさけぶ男の子に、鬼はわらいながらいいます。
  「それは、つごうがいい。わしらは、死んだ人間の肉のほうが、つめたくてすきだに」
   男の子はとびあがりました。
  「うわっ、生きてる、生きてる。ほら、このとおり」
   鬼は、大わらいです。
  「ワッハハハハ、うそじゃよ。わしたちは、人間を食べるわるい鬼でねえ。雨をふらす、よい鬼なんじゃよ。ほれ、こんなぐあいにな」
  と、鬼がたいこを鳴らすと、娘たちがひしゃくで雨をふらせます。
  「わかった、おじいさん、かみなりさま(→詳細)だべっ」
  「そうじゃ、かみなりさまだ。これから雨をふらせにいく」
  「おらもいっしょにいく」
   鬼と娘たちののった雲に、男の子もとびのりました。
   男の子は、雲の上から下を見ました。
  「あっ、おらたちの村だ!」
   鬼は立ちあがって、たいこを鳴らしました。
   娘の一人が、かがみで光を地上へてらしました。
   いなびかりです。
   もう一人の娘は、ひしゃくで雨をふらせます。
   その日は、ちょうど村の夏まつりでした。
   おおぜいの人が集まっていたからたまりません。
  「うわあ! 夕立だあっ」
   とつぜんのかみなりの音とともに、いなずまが光り、雨がふりだしたので、もう、上を下への大さわぎ。
   雲の上から見ていた男の子は、そのようすがおもしろくてたまりません。
  「ねえ、娘さん、おらにも雨のひしゃくをかしてくれろ」
   男の子はひしゃくをかりて、おもしろがって雲の上から雨をふらせました。
   村は、たきのような大雨です。
  「それっ、それっ。わあっ、おもしれえな」
   そのとき、ひしゃくのえが、ポキンと、おれてしまったのです。
   おれたひょうしに、男の子は雲から足をふみはずしてしまいました。
  「うわっ、たすけてくれ! まだ、死にたくないようー!」
   雨の中をおちていく男の子は、クワ畑の上へドシン!
   なんと、男の子のからだは、運よくクワの木にひっかかり、いのちだけはたすかったのでした。
   これを見て、かみなりさまはいいました。
  「せっかく、わしの後をつがせようと思ったのに。おしいことをしたのう」
   でも、もっとざんねんがっていたのは、二人の娘たちでした。
   二人とも心のなかでは、あの男の子のおよめさんになりたいと思っていたからです。
   それからというもの、クワの木のそばには、けっしてかみなりはおちないという話です。
   きっと、かみなりさまが、男の子をたすけてくれたクワの木へ、おれいをしているつもりなのでしょう。
   だから、いまでもかみなりが鳴るときは、クワの枝をきってきて、それを家ののき下へぶらさげるとよいといわれています。
おしまい