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5月22日の日本の昔話
  
  
  
  おどるしかばね
 むかしむかし、あるところに、庄屋(しょうや→詳細)さんの夫婦がいました。
   庄屋さんはまじめで、ふだんから、ねんぶつをとなえたりする人でしたが、おかみさんときたら、神も仏(ほとけ)もしんじようとはしません。
   それどころか、やしきではたらいている人たちをビシバシはたらかせて、じぶんひとり、ぜいたくな生活をしていました。
   ところがある日、ポックリと、死んでしまったのです。
  「『あの世のことなど、どうでもよい。この世さえおもしろければ、あとは野となれ、山となれ』などといっていた、どうしようもない女房だが、人なみに、そうしきをしてやらねばなるまい」
   庄屋さんは、おかみさんのしかばね(→死人の体)のまえに、おせんこうをたいて、手をあわせました。
   そのばんおそく、どこからか、ふえやたいこの音がきこえてきました。
   その音は、しだいに庄屋さんのやしきのほうへと、ちかづいてきます。
   すると不思議なことに、おかみさんのしかばねが、ゆっくりおきあがったのです。
   そして、ふえやたいこにあわせて、おどりはじめました。
   庄屋さんも、おつやに集まってきていた人たちも、ビックリするばかりです。
   ふえやたいこのねいろは、庄屋さんのやしきのやねのあたりで、しばらくなりひびいていましたが、そのうちに、どこかへとおざかっていきます。
   するとおかみさんのしかばねも、おどりながら、フラフラと、あるきさっていくのです。
  「これはたいへんだ!」
   庄屋さんは、ハッとわれにかえって、にわの木のえだをへしおると、これを手にしかばねのあとをおいました。
   どんどんいくと、そこにはおはかがあって、おに火がユラユラとゆらめいていました。
   ふえやたいこの音色(ねいろ)が、いちだんとにぎやかです。
   おかみさんのしかばねは、音色にあわせて、おどりつづけています。
   庄屋さんは手にしていた木のえだで、おかみさんのしかばねをぶちました。
   とたんに、しかばねはバッタリたおれ、ふえやたいこもピタリとなりやみました。
  「やれやれ、生きていたときの行いがわるかったために、まものにつれていかれようとしたのだろう」
   庄屋さんは、しかばねをせおってかえり、あくる日ぶじに、おそうしきをだしたということです。
おしまい