
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 11月の日本昔話 > ネコ岳のばけネコ
11月25日の日本の昔話
  
  
  
  ネコ岳のばけネコ
 むかしむかし、たびの商人(しょうにん)の五助(ごすけ)が、九州のあそ山のおくへでかけたときのことです。
   あその草原はひろくて、千里(四千キロメートル)もあるといわれています。
   五助は、いつのまにか道をまちがえたらしく、いわのゴツゴツしたところにでてしまいました。
  「さあ、こまったぞ」
   五助がこまっていると、かすかに、ネコのなきごえがきこえました。
  「はて、こんな山のなかにネコがいるとはふしぎだ。そういえば、たしかこのあたりに、ネコ岳(だけ)という山があって、ばけネコのかしらがいるときいたことがある。・・・つかまったら、たいへんだ」
   五助はいそいで山をおりかけました。
   すると、山のなかにあかりがひとつ、ボンヤリとともっています。
  「これはありがたい。とめてもらうとしよう」
   五助が、あかりのほうに歩いていくと、りっぱなやしきがありました。
  「すみません。たびのものですが」
   こえをかけると、うつくしい女があらわれて、
  「どうぞ、おあがりなさい」
  と、おくのざしきにとおしてくれました。
   しばらくすると、
  「おふろがわきました。おふろに入っているあいだに、ごはんのしたくをしておきましょう」
  と、さっきの女がいいました。
   五助がふろにいこうとすると、ろうかですれちがったべつの女が、ひどくおどろいた顔で、
  「五助どん? ・・・はっ! ここは人間のくるところではありません。はやくにげないと、ネコのすがたにされてしまいます」
  と、耳うちをしました。
  「あんたは、だれだね?」
  「むかし、五助どんの家のちかくにいた、みけネコです。としをとったので、ネコ岳のばけネコのかしらにつかえています。それより、はやくおにげなさい」
   五助はそれをきいて、いのちからがらにげだしました。
   すると、
  「まてぇー!」
   お湯の入ったおけを手にした女たちが、おいかけてきました。
   女たちは、いわの上からひしゃくでくんだ、おけのお湯を、五助にかけようとしました。
   バシャー!
   足に少しお湯がかかりましたが、五助はころげるように山をくだって、ようやく町へにげかえりました。
   あとでお湯のかかった足をしらべると、ネコの毛がはえていました。
  「あぶないところだった。もしふろに入っていたら、いまごろはネコに」
   五助は、それからというもの、ネコ岳にはちかづきませんでした。
おしまい